超営業力
1年半で年商2千万円が3億円に激変した方法
木戸 一敏(きど かずとし)
はじめに
あなたは、こんなことで悩んでいませんか?
「どうすれば社員の営業力が上がるんだろう……」
この質問の答えがイエスなら、3ヶ月でその悩みが解決できる方法をこの本はお伝えできます。実は何を隠そう私自身がそのようなことで悩んでいました。
社員の営業力を伸ばすためにアプローチブックを用意したり、役に立ちそうな本を読ませたり、営業同行をして教えたりしても、さっぱり契約を上げてこない……。
しかも営業社員ひとりだけでなく、6人全員がまったく売れない状態が1年も続き、年商はたったの2千万円。つまり大赤字です。
そんな会社が、本書でお伝えするノウハウを実践した1年半後……。
一気に年商が3億円に激増しました。
一体どんなことをしたのか?
ズバリ! 一言で言うと〝気にかける〟こと。
商品を売ろうとするのを一切やめて、目の前にいる人を〝気にかける〟ようにしたんです。
そうした瞬間から、門前払いの連続だったのが、会話が進むようになり、まったく取れなかったアポイントが次々に取れ始め、見積書を提出した80%が契約になるように激変しました。
極端な話、「気にかける」ことさえすれば、商品知識がない新人営業マンでも、営業が大の苦手な職人でも売れるようになるくらい「気にかける」ことはパワフルなことに気づいたんです。
「気にかけることは良いことだけど、でもそれだけじゃ売れないでしょ?」
はい。あなただけでなく「気にかけたら売れる」という話をすると、だれもが怪訝そうな顔つきになります。
私自身も同じように思っていました。
ある事件が起きるまでは。
そのある事件とは、私が中学生向け教材販売の営業マン時代の話。商品説明を一切していないのに、お客さんのほうから値段を聞かれ、それに答えたらアッサリ売れてしまったんです。
会社に帰り上司にその経緯を報告すると「だから売れたんだよ」と言われ、意味がさっぱりわかりません。
そのお客さんは話し始めるなり「うちの子には無理」「うちの子は頭がよくないから」とネガティブな発言ばかり。
なので私は「この人は買わない人」と判断しサッサと帰ろうとしたのですが、ネガティブな発言が止まりません。
あまりに聞き捨てならなかったので、つい「どんな子でも絶対にいいところはありますよ」「もっと自分の子供を信じてください」「お母さんが子供を認めてあげないと」といったようなことを1時間近くも話しました。
そうしたら、だんだん「なるほどね」「そうよね」と前向きになり、ときおり笑顔が出てくるようになったとき突然「ところでその教材っていくらするの?」と聞いてきたのでビックリです。
こう報告をしたあと上司が言ってくれたこの言葉が、私の頭の中でずっとこだまするようになったんです。
「今までの木戸は、いかにして商品の良さをわかってもらうかに一生懸命だった。これは主語が商品になっているんだよ。それが今回は、主語が目の前の人になっていた。そのスタンスで接すれば『この営業マンは私のことをわかってくれる』と信頼されるようになるんだよ」
正直、上司が言ったことは半分意味がわかりませんでしたが、これをきっかけに商談のときは「今、自分が考えているのは主語が商品? 目の前の人?」と考えるようになりました。
すると次々と契約が上がるようになり10年間売れないダメ営業マンから脱出し、気がつくと37ヶ月連続トップの成績を上げるまでに激変しました。
「なるほど、確かに主語をお客さんにする考えは大切ですね。ただ問題は、それを社員に教えても定着しないところですよ」
おっしゃるとおりです。
社員が教えたことを次々行動に起こすようになれば、なんの苦労もなく物事が前に進みます。しかし現実は何度言っても定着しないし、それ以上言ってしまうと「会社を辞めます」と言われてしまいます。
実は私もそれには悩みました。37ヶ月連続トップの成績を上げ自信をつけた私はその後、独立し社員を雇用したのですが、1年の間に20人以上も入れ替わりました。
そんなわけで第1期決算は大赤字です。
「やっぱり俺には経営者の才能はなかったんだ……」と思ったものの、諦める前に私がずっと避けてきたことをやってみて、それでダメだったら会社を閉めようと決めました。その〝避けてきたこと〟とはミーティングです。
理由は、多人数の前で喋るのが大の苦手だからです。それで社員に司会進行をさせて私は横で聞いているだけ、というスタイルでミーティングがスタート。
数回ミーティングを行っていくと、根本的な解決にならない話を繰り返しているのがわかってきました。
そのとき無意識にこんな言葉が私の口から出たんです。
「売ろうとするんじゃなく、まずは気にかけないと」
そう言った瞬間、私がダメ営業マン時代、上司に「主語を商品ではなく目の前の人にする」と言われたことを思い出しました。上司が言っていたことが腑に落ちた瞬間でした。
商品を売ろうとするのではなく、気にかける。
これを社員に徹底するために試行錯誤を繰り返す中で、気にかけ方が体系化され、
「気にかける技術」として社内に少しずつ定着してきました。
すると今までまったく売れなかった営業社員が次々と契約を上げるようになり、1年半後、年商2千万円の大赤字会社が一気に3億円に激変。
実に15倍アップです。
この体験から私は「気にかける技術」を日本中に広めようと、会社の事業内容をリフォーム業からコンサルティング業に変えました。
そうしてコンサルティング事業がスタートしたのですが、思ったようにクライアントの売り上げが伸びません。
そこで気づいたのが、一貫性の欠如です。
営業マンがお客さんを気にかけるように、社長も社員を気にかける。そうすることで社員との信頼関係が築け、「気にかける」ことの一貫性が生まれます。
そこで、社内に「気にかける技術」を浸透させるミーティングをそのクライアントと始めます。試行錯誤を繰り返すこと6ヶ月、赤字続きだった利益が3倍になり、一気に社内が活性化しました。
そのときクライアントの社長がこんなことを言ってくれました。
「お客さんも社員も仲間って感じるようになって、朝ワクワクして目が覚めるようになったんですよ」
タイトルの「超営業力」というのは、この社長の言葉にある、単に商品が売れるようになるという「営業力」ではなく、それを超越した人間関係が築けて仕事が楽しいと感じられるようになることから、「超営業力」と名づけました。
それから20年以上経った今では、その「超営業力」を使った実績は、個人の営業マンから業界大手住設メーカーの大企業まで1千社以上にもなり、圧倒的な成果を上げるクライアントが数え切れないほどに増えました。
そのほんの一部を紹介すると……
✓ 年商4億円で赤字垂れ流し状態だったのが、半年で黒字化し10億円を超えたリフォ
ーム会社
✓ 22年間、生保の月契約0~1件だったのが、毎月10件契約を上げるようになった損保保険代理店
✓ FC本部の指導どおり活動しても半年顧客ゼロが、実践1ヶ月で10件申込みが増えたデイサービス店
✓ 1年で元請け売上ゼロ年商2千万円の下請けが、元請けで年商1億円になった工務店
✓ 広告を出しても月10件問い合わせで契約ゼロが、広告なしで契約になり倒産を免れた不動産会社
✓ 自社受注が増えず悩んでいたのが、3ヶ月で10件受注に成功し紹介も来るようになった電気工事店
✓ 新規事業開設9ヶ月、門前払いの連続だったのが、4ヶ月間で6件受注した省エネ商品取扱会社
といったような実績が既にあります。
本書の目的はただひとつ。あなたの会社も事例に挙げたクライアントと同じように成果が上がるよう「超営業力」の具体的方法と考え方を出し惜しみなくすべてをお伝えすることです。
そのために第1章では、「超営業力が育たない4つの間違い」についてお伝えします。営業力と超営業力は似て非なる部分が多くあります。
そこをしっかり理解せず読み進めてしまうと、実践しても空回りしてしまう大きな原因になります。何事もスタートが肝心ですので4つの間違いをしっかり理解してください。
第2章では、年商2千万円の大赤字会社が3億円に激変する大きなキッカケとなった「気にかける技術」を定着させるために開発した「ひとみるシート」を公開します。
そしてシートにある各項目で、なぜ超営業力が育っていくかを解説します。
第3章では、週1回、営業ミーティングで使うだけで売れる営業マンに変わる「ひとみるシート」の使い方を解説します。
第4章は、「ひとみるシート」を営業ミーティングで効果的に使う15ステップをお伝えします。
このステップのとおりにやるだけで、社員の超営業力が確実に育っていきます。
第5章では、心の平穏を得る方法をお伝えします。赤字続きだった会社が黒字化すると、今度はそれを維持するためのプレッシャーや、社内の人間関係の問題が起き、心が休まることがありません。
そんな会社経営だったのが心の平穏を得られるようになり「なんで仕事してるの?」と聞かれたとき「楽しいからに決まってるでしょ!」と言える人になる秘訣をお伝えします。
では、これからあなたの会社が3ヶ月で売れる営業組織に激変するコツやポイントなど具体的な方法をステップバイステップでお伝えしましょう。
はじめに
1章 超営業力が育たない4つの間違い
超営業力が育たない間違い1【「顧客は敵」という意識】
・経営理念と普段使う言葉の矛盾
・「敵対関係の言葉」を使う影響
超営業力が育たない間違い2【効率化の追求】
・商談時間を半分にする実験
・効率化の落とし穴
超営業力が育たない間違い3【商品知識を高めて営業力をつける】
・2千人既存顧客がいるのに売れない理由
・商品知識ゼロの新人営業が売れる理由
超営業力が育たない間違い4【社員の営業活動の時間最優先】
・社長の自己満足のためのミーティング
・社長が一切話さないミーティングが功を奏した理由
・社員任せの会社で伸びている会社は一社もない
2章 超営業力を浸透させる「ひとみるシート」とは?
これが年商を15倍にした「ひとみるシート」の実物だ!
「ひとみるシート」とは?
週1回使うだけでこんな5つのメリットがある!
「ひとみるシート」はスプレッドシートで使うと超便利
2つのブロックの視点が「超営業力」を養う
行動予定はこう絞ればいい!
アクションを表現する言葉がポイント!
行動予定のベストな数とは?
スケジュール予定は決めることからスタートする
スケジュール調整で目標の達成率がアップする!
3章 「ひとみるシート」の核心部分はここにある!
ここが「ひとみるシート」の核心部分だ!
関係性を明確にすることでやるべきことが見える
他愛もない話の重要性に気づいている人は極めて少ない
いつも話が続かなかった社長と30分も会話が盛り上がった!
スケジュール調整で目標の達成率がアップする!
「見込みランク」ではなく「親密度」で判断する
お客さんとの距離感を見る
同じトークが親密度によって逆転する
なぜ「想像」ではなく「妄想」なのか?
笑顔が2つの壁を外す
笑顔の妄想はゼロから考えない
情報がないお客さんの笑顔はどう妄想するか?
「1週目シート」と「2〜4週目シート」の違いは、この2項目!
お客さんを知ろうとするアンテナ感度がアップする!
「先月の結果シート」でさらに成長を目指す!
4章 この15ステップであなたの会社に
超営業力が育つ!
「ひとみるシート」は個人任せにしない
ミーティングを行う理由は「2−1−3の法則」で伝える
新たな取り組みに社員が協力的になる3つのポイント
「ひとみるシート」を使う前の準備が大事
1週目の「ひとみるシート」はこの15ステップで進める!
2〜4週目ミーティングの進め方
「先月の結果シート」の使い方
5章 「ひとみるシート」があなたの会社に
奇跡を起こす!
「ひとみるシート」の素晴らしい世界へようこそ!
間違えて訪問したお宅がまさかの契約に!
・実践1ヶ月目の「ひとみるシート」の内容は?
・家族構成を聞いたことで意外な展開に!
・2回も続けて「笑顔の妄想」のとおりに話が進んだ!
・いつも背中を押しての契約が、お願いされて契約に!
8ヶ月間、成績ゼロが「ひとみるシート」導入2回目で成約に!
・メリットとデメリット両方を確認する
・3年間、空回りをしていた原因はココにあった!
他社より高い見積もりなのに1分で即決に!
・5年間放ったらかしのお客さんへの顔出しに気が引けるTさん
・建物と会話をしていた社長
・「根っから仕事が好きなんだね」と言われていきなり契約に!
・信頼される決め手は工事説明でないところにあった!
・営業の達人社長は無意識で人間関係づくりをしている
6章 好循環の歯車をグルグル回すのに
必要なたった1つのこと
社員を気にかけることへの不安
「社長のひとみるシート」を使えば不安は一掃
ほんの少しでも感じたことにアンテナを立てる
感情の言葉は自分で考えない
これで「みとめポイント」が完成!
「みとめポイント」を発表したあとの3つのチェック項目
「みとめポイント」発表の絶大な効果とは?
おわりに
1章 超営業力が育たない4つの間違い
超営業力が育たない間違い1【「顧客は敵」という意識】
・経営理念と普段使う言葉の矛盾
質問があります。
あなたの会社の経営理念を教えていただけますか?
きっとその経営理念には「顧客との信頼」「顧客を幸せに」「顧客の笑顔のために」といった文言が含まれていると思います。
ところが社内では、このような会話が飛び交っていませんか?
「お客を迷わせず落とせ」
「お客を逃さないよう囲い込むんだ!」
「今日の客をどう詰めていこうか」
これらは顧客を敵とみなした言葉です。
私はよくクライアントのミーティングに参加する機会があるのですが、多くの会社が普通にこのような言葉を使っています。
これは中小企業だけの話ではなく、テレビCMなどで誰もがよく知る大企業でも同じです。
会社の経営理念と普段使う言葉の矛盾。あなたはこれについてどう思いますか?
「確かに矛盾はあるけど、それが営業力と関係あるんですか?」
はい、おおいにあります。
たとえば「クロージング」という言葉はどの会社も普通に使っています。しかしお客さんの前ではクロージングという言葉は絶対に使わないはずです。
もし商談の場で「では今からクロージングに入ります」なんて言ってしまったら、お客さんは警戒し商談は台無しになってしまいますからね。
つまり、裏ではクロージングという言葉を使い、表では使わない。
この心の中で行われている切り替え行為がエネルギーの浪費になり、ストレスが知らない間に溜まってしまうんです。
・「敵対関係の言葉」を使う影響
何よりも最悪なのが無意識のうちに顧客を敵と認識しながら対応していることです。
こう言うと誰もが「お客さんを敵なんて思っていませんよ」と言いますが言葉の影響力というのは絶大な力があり、普段から敵対関係の言葉を使っているとその言葉に影響されるのが人間です。
無意識レベルでお客さんに敵対する気持ちで接すると、それは必ず伝わっているものなんです。
社員の営業力を伸ばすためにアプローチブックを用意したり、役に立ちそうな本を読ませたり、営業同行をして教えたりしても、さっぱり契約を上げてこない……。この最大の原因は、普段使っている言葉に大きく影響されているからです。
「そうはいっても長年使ってきた言葉って、なかなか変えられないですよ」
おっしゃるとおりです。
髪を無意識にいじってしまうという癖を持っている人が、これを直そうとしてもなかなか直らないのと同じように、普段から使っている言葉を変えるというのは至難の技です。
でもご安心ください。次の章でお伝えする「ひとみるシート」を週に1回、社員と一緒に使うことで敵対関係の言葉に違和感を持ち始め、急速に普段の会話から消えていきます。反対に経営理念と一致する言葉が増え社内の雰囲気が今まで以上に明るくなります。そうなったとき、社員に超営業力が身に付いていることに気づくはずです。
超営業力が育たない間違い2【効率化の追求】
・商談時間を半分にする実験
私が10年と長かったダメ営業マンを脱出し、中学生向け教材営業で安定してトップの成績を上げ続けられるようになって1年経ったとき、さらに成績を上げようとあることを考えそれを実験したことがあります。
その〝あること〟とは、「効率化」です。
電話アポインターが教材説明の時間の約束をして、そこに私が訪問し契約を上げてくるというスタイルで、即決が基本です。そうすると商談の時間が早くて1時間半、長いと3時間、通常は2時間を要します。
またアポイントが取れた訪問先への移動が車で1時間かかるケースが多いので、1日に商談できる数は3件が限界です。
さらに成績を上げるには1日の商談数を増やす必要があります。
そこで考えたのが、商談時間を半分の1時間にすること。そうすれば1日の商談件数を2倍に増やし、成績も2倍近くにすることができます。
そこで改めて自分が商談でどんなやり取りをしているのかを洗い出し、ムダな部分や短縮できる説明がないかを探しました。
しかしそれがなかなか見つからないので、商談をする中で試行錯誤を繰り返しながら新たな商談の進め方を構築しました。
そして新たな商談の進め方を実践したのですが、10日間契約ゼロが続きます。お客さんの感触は悪くはないので、新しく考えた進め方に慣れたら結果が出る自信はありました。
ただ、このままやり続けるのはリスクがあるので10日以降は通常の商談に戻し契約を上げ、月初めに再び新たな商談を試みる計画を立てたのですが、翌月もまた10日間は契約ゼロ。
10日以降また元の進め方に戻し契約を上げ、月初に新たな進め方で商談をすると契約ゼロ。
こんなことを3ヶ月繰り返して出た結論は、
お客さんとの関係づくりを効率化しようとすると非効率になる、
ということです。
・効率化の落とし穴
「関係づくり」とは何かを具体的に言うと、
✓ 目の前にいるお客さんが今どんな心配や気になっていることがあるのか?
✓ それはどのようなことがきっかけだったのか?
✓ どのような状態になることを希望しているのか?
などといったことをお客さんが心を開いて話をしてくれる状態をつくることです。
そのためには、相手(お客さん)スポットライトのスタンスで接することですが、それが効率化を図ろうとした時点で自分スポットライトになっていることに気がついたんです。上司にも「そこは効率化しちゃダメなところだよ」と言われ、私の中でハッキリしました。
このときの私と同じように、効率化の落とし穴にハマった話をよく聞きます。
ある会社は競争激化の中、勝ち組に入ろうと様々なマーケティング手法を駆使するようになってから「リード管理はできてる?」「新しいプロダクトを開発しよう」「まずはペルソナから」といった用語が飛び交うようになりました。
しかし売り上げを伸ばすために始めたマーケティングなのに、反対に売り上げがさらに落ちることになってしまったという話があります。
原因は、スポットライトを手法に当てているからです。
このように売り上げ不振に陥る9割は相手スポットライトのつもりが、知らない間に手法や自社、自分にスポットライトを当てているケースです。
では、効率化の落とし穴に落ちないためにはどうしたらいいのか?
その答えは「気にかけること」です。
当たり前の話ですが、お客さんは人間です。感情があります。どんなに商品が良くて安くても、その商品を勧める営業マンが言っていることや態度を「不快」とお客さんが感じたら売れません。
効率化を図るあまり、このような状況に陥っている話をよく聞きます。
反対に他社より価格が高くても「この営業マンは私のことを気にかけて親身になって対応してくれる」とお客さんが感じたことで契約になることが多くあります。
効率化を図るあまり数ある仕事をこなす中のひとつとならないよう、目の前にいるお客さんを気にかけることが大切です。
超営業力が育たない間違い3【商品知識を高めて営業力をつける】
・2千人既存顧客がいるのに売れない理由
ファイナンシャルプランナーとして30年の経歴を持つ沢田さん(仮名)から、このような相談がありました。
「売り上げが全盛期の3分の1に落ちたことで、新たな知識を身につけようと相続の勉強を半年間みっちりしました。そして2千人の既存顧客に相続の相談会DM を送ったのですが、全く反応がありません。諦めずに電話をして相続の案内をするのですが、既存顧客のはずが2割しか電話に出てくれないんです。そこからアポイントが取れて訪問してもお客さんは警戒心が強くて、なかなか契約にならないんです」
このような相談は沢田さんだけではありません。他にも「節税の仕組みを社員に勉強させても成果が現れない」「一般的に知られている耐震補強の間違った知識を伝えても売れない」「添加剤の成分の違いとデータ分析を見せてもお客さんの反応はイマイチ」など商品知識を高めても、それが契約に結びつかないという相談が私のメールボックスに頻繁に寄せられます。
その一番の理由は、先ほどの沢田さんの言葉の中にあります。この部分です。
「お客さんは警戒心が強くて」
つまり警戒心を取り除く発想が、スッポリ抜けてしまっているんです。
一度契約をした既存顧客であっても実は100%納得をして契約したわけではなかったり、突然提案をされると売り込まれたと感じたり、契約から時間が経ったため信頼関係が薄くなっていたりします。
それが新規顧客となると、さらに警戒心を取り除く対応が重要になります。仮に商品知識を高めて売れるなら営業マンではなく、商品知識が豊富な技術者や開発者、建築業なら職人に顧客対応をしてもらえれば売れることになりますが、そうではありませんよね。営業マンの仕事は、警戒心を取り除き、あなたの話を聞いてくれる関係づくりが9割です。
・商品知識ゼロの新人営業が売れる理由
その証拠に、商品知識が乏しくても人付き合いのいい新人営業マンであれば、半年は売れるという話を保険代理店の社長から聞きました。
「人付き合いがいいから友だちがたくさんいる。その友だちに『保険の仕事を始めたんだけど、一度話を聞いてくれない?』と頼めば『話を聞くだけなら』と言ってくれアポが取れる。そこに上司が営業同行して説明すれば一定の確率で契約になるんですよね」
この話を聞いて、なるほどと思いました。これとまったく同じ体験がリフォーム会社経営時代にあります。
営業経験ゼロ、建築業の知識ゼロの狭山(仮名)が入社したときの話です。見習い期間
中は案件を渡しません。それなのに初月からアポイントを取ってきて契約を上げ、3ヶ
月後には社内トップの売り上げをあげました。
一体どこからお客さんを見つけているかを聞いたら、前職の仲間に声を掛けていたと言います。
この2つの例からいえるのは、彼らが売れた要因は商品知識ではないということ。
警戒心なく商品の話を聞いてくれる関係を築いている人脈を持っていたことです。つまり、あなたの話を聞いてくれる関係を築くことが大切なんです。
このようなことから、商品知識を高めることと売れることは別問題なので、切り離して考えましょう。
超営業力が育たない間違い4【社員の営業活動の時間最優先】
・社長の自己満足のためのミーティング
営業マン時代、私はずっと朝礼やミーティングは、社長の自己満足だと思っていまし
た。
社長としての威厳を保つために、そのような形式ばったことをやっているだけ。なのでもし自分が会社をつくったときは、締め付けのための朝礼や無意味なミーティングを排除し、自分のやりたいスタイルで自由に営業活動ができる会社にする。こんな思いがありました。
なんと、それを実現することになったのです。
10年間全く売れないダメ営業マンの私が、37ヶ月連続トップの成績を上げたことで自信をつけたとき、違う商品でも売ることができるか試したい衝動に駆られ、住宅リフォーム営業にチャレンジしました。
それがわけあって入社わずか2ヶ月で独立することになり、その1年後、自分が考えていた自由に営業活動ができる会社を作ろうと考えたんです。
しかし今まで転職ばかりを繰り返し、人の上に立ったことが一度もない私が会社を始めるのは無謀だと妻や友人は大反対。
そんな声を押し切り私は埼玉県大宮市(現さいたま市大宮区)に事務所を借りて求人広告を出し、営業社員5人体制で会社をスタートしました。
ラッキーなことに5人全員に営業経験があり、そのうちのひとりは前の会社でトップの成績を上げていたんです。
「ツイてる!」
もしかしたら1年も経たずに年商1億円になるのではないかと、期待に胸が膨らみます。
ところが蓋を開けてみると3ヶ月経ってやっと契約が1件。これは営業マン5人の合計
です。
その1ヶ月後、まったく売れない営業マン2人が辞めました。それでまた営業マンの募集をかけ、またひとり辞めてということの繰り返しが始まり、あっという間に1年が経ち、決算売上2千万円で大赤字。
1千万円あった資本金があっという間に底をつきました。
「やっぱり俺には経営者は無理だったんだ……」まさに後悔先に立たず、です。
・社長が一切話さないミーティングが功を奏した理由
そんなとき、私の考え方を指摘してくれた先輩経営者の言葉を思い出したんです。
「ただ人が集まっているだけで情報共有も助け合いもない、会社の方向性を確認し合うこともない。それは会社じゃないよ。それじゃうまくいかないね」
先輩の言うことが正しかったのかもしれない。でも認めたくない。
しばらく葛藤する日が続きましたが、会社を潰すわけにはいかないので朝礼とミーティングを始めることを決めました。
しかし私はこれまでに役職に就いたことがない上に、朝礼やミーティングを仕切った経験もない。なによりも多人数の前で話をするのは大の苦手。
やりたくない気持ちが強くなり、朝礼を始めると決めておきながら、着手しないまま1ヶ月経ちました。
そんなある日、とても良いアイデアがひらめいたんです。
それは今いる社員の誰かに朝礼もミーティングも仕切ってもらうこと。そうすれば私はしゃべらなくて済む。我ながらこれは、とてもいい案だと思いました。
そこで、ちょっと頼りないが一番人の面倒見の良さそうな佐藤(仮名)に打診すると、二つ返事で引き受けてくれることになり、早速、翌週から朝礼と週1回のミーティングをやることが決まりました。
会社が創業して以来初めての朝礼が始まります。
佐藤が少し声を張り上げて言いました。
「それでは皆さん朝礼を始めます。改めましておはようございます!」
「おはようございます!」
全員が元気よく唱和します。やっぱり朝礼をやることによって、こんなにも会社らしくなるんだと感心しました。
ところが朝礼が始まって10分ほど経ち、佐藤が締めようとしたとき、思いもよらないことが起こります。
「それでは社長、締めの言葉をお願いします」
突然、佐藤が私に振ってきたんです。事前の打ち合わせになかったことで、私は頭の中が真っ白になり、脇の下から一気に汗が流れ落ちました。
そして苦し紛れに、「まあ、今日はこれくらいにしておこう。以上」と目を伏せがちにして言いました。
やばい……。
これから毎日、佐藤から締めの言葉を振られる。「俺に振るな」と言うのもおかしい
し、でも振られてもなにを話したらいいか……。
朝礼が終わるなり私はあわてて本屋さんに走り、朝礼の本3冊を買い、その日は営業活動を一切せず、ひたすらノートに朝礼でしゃべる内容を書きました。
しかし、さらに不吉な予感が頭をかすめます。それはミーティングです。
きっと佐藤はミーティングでも私に振ってくるに違いない。ここもなんとかしないと大変なことになる……。
そのとき、またしてもいい案がひらめき、佐藤に伝えました。
「みんなの力をつけるために私は一切しゃべらない。みんなで話し合うことが大切だ。どうしても困ったときはミーティング以外の時間で相談に乗る」
そして、初めてのミーティングが行われます。ここでも佐藤が上手に進めてくれ、私は一切しゃべらなくて済んだので朝礼より楽でした。
ミーティングを始めて4回目あたりから、みんながどう活動しているのか徐々に見えてきました。それと同時に佐藤の部下へのアドバイスの仕方に改善の余地があることも見えてきたんです。
それは佐藤がすぐに答えを言ってしまうことです。これでは部下の考える力が育ちません。
そこで佐藤に「答えは自分が言わず部下から引き出すように」と伝えました。
その後もミーティングの改善案が次々と出てくるようになり、その都度メモを取っていくうちに、次章で公開する「ひとみるシート」の原型となるものができあがりました。
このような週1回ミーティングを始めてから1年半後、気がつくと年商が3億円になっていたんです。
「やったぞ!」という感動はなく「あれ、いっちゃったぁ」という感じです。
・社員任せの会社で伸びている会社は一社もない
その後、事業内容をリフォーム業からコンサルティング業に変え、あるクライアントの営業ミーティングに参加したとき、私のやり方とは全く違うことに気づきます。
そこはフランチャイズに加盟する美容製品販売会社で営業社員が7人いる会社です。
社長とリーダーが一方的に話すだけで、社員は聞いているだけ。そこでなぜ社員は発言しないのかを社長に聞いたところ「彼らに話を振っても喋らないんです」と言います。
しかし社員一人一人に話を聞くと全員が自分の考えや意見を持っています。
そのクライアントの営業ミーティングに参加するようになって3回目のとき、「社員が喋らない」「ミーティングが盛り上がらない」「売上に結びつかない」となってしまう、2つの理由が明らかになりました。
1つは、営業ミーティングの進め方と内容。もう1つは、社長から社員への言葉掛けです。もし、この2つを同時に解決する方法があるとしたら知りたくありませんか?
それが「ひとみるシート」を使ったミーティングにあります。その進め方を第3章で紹介します。先ほどの美容製品販売会社が、このミーティングを始めてから1年後、このように変わりました。
✓ 社員全員が発言するようになった
✓ 社員が笑顔で参加するミーティングになった
✓ 売上に結びつく有意義な情報共有ができるようになった
✓ 社長と社員、社員同士の会話が増え社内が明るくなった
✓ 営業社員が長く続くようになった
そして数百社ある加盟店の中で50位だったのが、ベスト10入りを果たしました。
つまり、社員任せのやり方では会社は伸びないということです。
私だけでなく、これまで1千社以上の会社のコンサルティングをしてきましたが、社員任せの会社で伸びている会社は1社もありません。
私が会社を始めたとき指摘してくれた先輩経営者の言葉のとおり、情報共有や助け合い、方向性を確認し合う場づくりが社長の仕事で、そのためにもミーティングは欠かせないのです。
2章 超営業力を浸透させる「ひとみるシート」とは?
これが年商を15倍にした「ひとみるシート」の実物だ!
年商2千万円の大赤字だった会社が1年半で3億円に激変した……
その秘密が超営業力を生み出す「気にかける」ことにあるとお伝えしました。
そしてこの「気にかける」ことを社員に浸透させるために使うのが「ひとみるシート」になります。
それでは「ひとみるシート」が一体どういったものなのかをお見せしましょう。左のページをご覧ください。
「ひとみるシート」とは?
改めて「ひとみるシート」とはなにかを、一言でいうと「行動計画シート」です。
一般的な行動計画シートと大きく違う点は、「ひとみるシート」という名称のとおり、『人を見る』ところに焦点を当てているところです。
つまり「お客さん」ではなく、「人」を見るということです。
社員が成績不振に陥る根本的な原因は、「お客さん」=「契約」と見て接していることにあります。
このような気持ちで商談をすると、その気持ちがお客さんに透けて見えてしまい「この営業マンは自分の成績欲しさに一生懸命なんだ」と思われてしまいます。
しかし、成績不振に陥っている社員に、どんなに「お客さんではなく、人として見て接するんだ」と言っても目に見えない話なので理解できません。
これを解決するのが、「気にかける」ことです。
辞書には「『気にかける』とは、 気にする、心配するという意味」と書かれています。
本書で言う「気にかける」は、「仕事以外で相手が笑顔になるよう問いかけること」と定義しています。
心の中で相手を気にしたり心配したりするのではなく、その気持ちを言葉にして問いかけるんです。
たとえば、寒そうな顔をしている友人に「大丈夫? 寒いんじゃない?」と問いかけると、その友人は「あぁ、ちょっと寒いんだよね。ありがとう」と気にかけてくれたことに対して嬉しい気持ちになります。
顔が笑顔にならなかったとしても、心の中は笑顔になっているのがイメージできますよね。
このように相手が笑顔になるよう問いかけることが気にかけで、「気にかける」ことは「問いかける」であり、「問いかける」ことは「気にかける」ことでもあるんです。
いろんな角度から何度も気にかけることで、相手の笑顔を何度も見られるようになります。その笑顔にあなたも嬉しい気持ちになります。
そうしたとき「なんとしても契約しないと」という自分スポットライトの気持ちは自然と消え、「この商品があることで、もしかしたらもっと笑顔になるかも!」と相手スポットライトの気持ちに変わってきます。
「ひとみるシート」を使うことで売り上げが伸びるだけでなく、仕事が楽しくなる理由がなんとなく理解できたでしょうか?
「ひとみるシート」が、ただの行動計画シートでないことが理解できたと思いますので、その内容をリフォーム会社の山本さん(仮名)にレクチャーする形で説明していきましょう。(敬称略)
週1回使うだけでこんな5つのメリットがある!
木戸「山本さんに質問です。『ひとみるシート』を月に何回使うのが一番効果的だと思いますか?」
山本「ん~、月に1回くらいがちょうどいいんですかねぇ」
木戸「どんなにいい方法を知ったとしても、それが習慣化しないと意味がないと思うんですが、そういった意味で月に1回やれば習慣化しそうですか?」
山本「そうすると週1回がいいんですかねぇ。実は以前週1でミーティングしてたんですが、特に数字がよくなるわけでもなかったので今は月1になってるんですが……」
木戸「数字がよくならなかった原因は、どのあたりにあると山本さんは考えてますか?」
山本「それがわからないので今回『ひとみるシート』に挑戦してみようと思ったんです」
木戸「実はリフォーム会社を始めたときミーティングをやっても売り上げは何も変わらなくて、いろいろ考えたんですが、そこでわかったことがあったんです」
山本「それは?」
木戸「目標数を掲げる。現状数字を発表する。『頑張ります!』と気合を入れる。こんなミーティングをやっても数字がよくならないどころか、どんどん空気が重くなるだけだったんです」
山本「まさにうちの会社がそんな感じです……」
木戸「そこでお客さんにスポットライトを当てた対応になっているかを確認し、行動を変えていく。そういったミーティングに変えてみたんです」
山本「それで売り上げがあがるようになったということですね」
木戸「ところが売り上げは何も変わらずで、3ヶ月過ぎたとき行動が何も変わっていないことに気づいたんです。そこでわかったのは、みんなミーティングで何をやるか決まったことを忘れてるんです。そこでミーティングを週1日にしてみたら、やっと成果が出始めたというわけなんです」
山本「なるほど。週1回『ひとみるシート』を使う必要があるということなんですね」
木戸「そうです。行動って、すぐに着手しないと習慣化されないので、1ヶ月の計画だと『夏休みの宿題』と同じで、直前にならないとやらない計画になってしまいますからね。なので、1ヶ月のゴールを設定し、1週間以内でやることを『ひとみるシート』に入力し、1週間ごとに確認するんです」
1週間に1回、行動確認をすることで、次のようなメリットがあります。
【メリット1】ゴールの意識を忘れずに保てるようになる
【メリット2】忘れないうちに改善点を見つけることができる
【メリット3】見つけた改善点を翌週に実践できる
【メリット4】次の週の行動が不明確なまま活動することがなくなる
【メリット5】行動が習慣化される
山本「ただ心配なのは、社員がいい顔しないんじゃないかと思うんですよ。それを無理やり押し付けて嫌々やっても時間のムダになるし、会社の雰囲気も悪くなるし……」
木戸「そこ、一番大切ですよね。私も営業マン時代その押し付けが嫌でしたからね。だからといって放ったらかしにしても伸びない。試行錯誤を繰り返す中でわかったのは、〝楽しい〟があることなんです」
山本「〝楽しい〟というと?」
木戸「『ひとみるシート』を使っている時間が社員にとって楽しいかどうか。その時間が楽しいものであれば、社員は負担に感じることはないし、反対に『また参加したい!』という気持ちになりますよね? その秘密が『ひとみるシート』にあるんです」
山本「なるほど。それは楽しみですね!」
木戸「そうです。では『ひとみるシート』を説明していきますね」
「ひとみるシート」はスプレッドシートで使うと超便利
山本「正直ぱっと見、細かい部分がたくさんあって、ちょっと難しそうですね……」
木戸「そう見えますよね。山本さんだけでなく、みなさんそう言います。でもまったく心配ないですよ。何をやるにしても初めてのことは、躊躇する気持ちや抵抗感が湧いてきますが、実際に使い始めると誰もが3週目位には簡単だということに気づきます。1ヶ月も使えばもうLINEやメールをするのと同じように普通に使えるようになりますからね」
山本「慣れってことですかね」
木戸「そうです。何よりもこのシートを使うことで、事細かく指示を出したり営業研修を受けさせたりすることなく、社員の成績が着実に伸び始めるので、それを体験できるとやめられなくなります」
山本「それが一番期待している部分です。ところで『ひとみるシート』は、紙にプリントアウトしたものを使うんでしょうか?」
木戸「紙に書く形ではなく、Google社のスプレッドシート(無料)で使うことをお勧めします。そうすることで2つの大きなメリットがあります。1つ目のメリットはいつでもどこでもすぐに確認できることです」
山本「というと?」
木戸「スプレッドシートのアプリをダウンロード(無料)すれば、パソコンでもスマホでも見ることができます。もし、急に会うことになったお客さんにどう気にかけようか困ったときは、すぐに確認することができますからね」
山本「なるほど! いつでもどこでも、すぐに確認できるのは実用的でいいですね!」
木戸「2つ目のメリットが、社員同士で共有できることです。社内全体で共有すれば、同僚や先輩の『ひとみるシート』も見ることができるので、気にかける言葉の引き出しが一気に増えます」
山本「共有できるのはいいですね! 普段、仲間と顔を合わせても具体的にどんなことやっているか知らなかったりするので、それができるのはお互いに成長できますね!」
木戸「確認ですが今、山本さんが見ている『ひとみるシート』は、ダウンロードをして開いた状態で、手付かずの状態ですよね?」
山本「はい、まだ入力していないです」
木戸「実は今、山本さんが見ているのは、1週目用のシートなんです」
山本「というと、2週目用、3週目用とあるということですか?」
木戸「はい、そうです。『ひとみるシート』の枠の下を見てもらえますか?」
山本「あ~、1週目用、2週目用、3週目用、4週目用、先月の結果』ってあります」
木戸「そうなんです。『ひとみるシート』は合計5つのシートで構成されているんです。『1週目用』の使い方がわかれば、シート全体の90%は理解できたことになるので『シートが5つもあるの?』って心配しなくて大丈夫ですからね」
2つのブロックの視点が「超営業力」を養う
木戸「では『1週目用シート』から説明していきますね。このシートは、2つのブロックに分かれています。『数字メンテナンス』のブロックと『行動詳細』のブロックの2つです」
山本「『数字メンテナンス』って初めて聞く言葉ですね」
木戸「あまりこういう表現はないかもですね。では、この2つのブロックについて、簡単に説明しますね。まず『数字メンテナンス』ですが、目標の数字を決めてそれを達成するための行動数を決めることは多くの会社でやってると思います」
山本「うちの会社でもやってましたけど、だんだんやらなくなりました」
木戸「私もそういった経験があります。そうなるのは、行動数を決めても現実はそのとおりにならないので、やってもムダって思うようになるからだと思うんです」
山本「そのとおりですね。なので今は、目標の数字だけにしています」
木戸「そこで行動数を決めて、そのとおりやろうとするのでなく、自分が行動できる数字を見つけるためにメンテナンスしていくんです。そうすることで、現実的な行動数が見えてくるんです。これがわかることで何を改善したらいいかが見えてくるんです」
山本「なるほどぉ~、その発想はなかったですね」
木戸「これがブロック1の『数字メンテナンス』です。もうひとつのブロック『行動詳細』は、アクションを起こそうとする1人のお客さんを決め、何を言ってどんな返答が来るかを妄想するんです」
山本「う~ん、そこまで詳細に見ていくんですね」
木戸「『数字メンテナンス』と『行動詳細』、この両輪を回していくことで『超営業力』が養われていくんです。まずは実際に『数字のメンテナンス』のブロックから行きますね。私が問いかけるので、それに山本さんが答える形で進めていきましょう」
山本「お願いします」
木戸「はい、では『1)目標』からいきますね。山本さんが今月4月末までに目標とする契約数と、その契約数を達成するために必要な商談数を教えてください」
山本「契約は10件くらい欲しいですね。そのために必要な商談数は15件くらいあれば大丈夫かなぁ」
木戸「ということは山本さんの成約率はいつも70%近くということになりますか?」
山本「ポータルサイトはほとんどが相見積もりなので、成約率はよくて30%くらいですが、既存客の場合はほぼ100%です」
木戸「ほぼ100%はすごいですね。どうしても目標を掲げると無理をすることが多いんですが、そうすると絵に描いた餅になってしまい、『ひとみるシートをやってもムダだ』となってしまうので、ここでは現実的な数字を入力します」
山本「まあ行けない数字でもないと思うので、これで行きます」
木戸「OKです。では『契約数10件、商談数15件』と入力しましょう。後で数字を変えることもありますが決めないことには進まないので、これでいきましょう」
【山本さんの1)目標】
4月末までに契約数「10」件を達成する。そのための商談数は「15」件を達成するよう行動する。
行動予定はこう絞ればいい!
木戸「では次に、『2)行動予定』を入力します。先ほどの契約数10件、商談数15件を達成するために『誰に? またはどこで? どんなアクションをするか?』を3つ挙げてください。参考に2つ例を見ながら、今までの行動を振り返って一度ノートに書き出してみてください」
【2)行動予定】「誰に?(どこで?)」「どんなアクションをする?」
入力例1
2−1「ホームページからの問い合わせに」「気にかけ対応する」
2−2「契約後5年経つ既存客に」「提案が必要か確認する」
2−3「現場近隣の方々に」「気にかけあいさつをする」
入力例2
2−1「新規開拓するのに中央区にある年商1~10億円の会社に」「気にかけテレアポする」
2−2「今月誕生月の顧客に」「ハガキを出し、おめでとうコールをする」
2−3「定期点検日1カ月前の顧客に」「手紙を出し、気にかけコールをする」
山本「今までというか今もポータルサイトからの問い合わせと既存客からのリピートや紹介の2つになります」
木戸「ではそれを先ほどの入力例のように『誰に? またはどこで? どんなアクションをするか?』のフォーマットに当てはめて答えてみてください」
山本「ひとつは『ポータルサイトからの問い合わせに、気にかけ対応する』という感じで大丈夫ですか?」
木戸「バッチリです」
山本「次が『既存客からリピート紹介を獲得する』ですかね」
木戸「では、それをブラッシュアップしていきますね。まず『誰に?』の部分が『既存客から』ということですね。これをさらに絞ってみませんか? そうすることでどんなアクションをすればいいかがより明確になります」
山本「つまり『誰に?』を絞ることでアクションが明確になるということですね。で、どんな感じで絞ればいんでしょうか?」
木戸「たとえば、契約してからの経過年数で絞るとか、エリアで絞るとか、工事種別で絞るとかあると思うんです」
山本「なるほど! 確かに既存客の中でもどう絞るかによって、言うことも変わってきますね! で、どれが一番いいんでしょうか?」
木戸「一番は今あげた一つひとつを詳細にイメージしたとき、山本さんにとって一番わくわくするのを選ぶといいです」
山本「木戸さんがあげてくれた『契約してからの経過年数で絞る』というのは、契約後1年では当然リフォーム工事したばかりなので、需要はないので、契約後10年以上に絞るということですよね。次の『エリアを絞る』のは、効率的に訪問できて、『工事種別』は、『外壁屋根が済んでるけど水廻りがまだ』というお客さんに絞るという感じですよね」
木戸「そのとおりです。それぞれ一長一短で、契約してからの経過年数で絞れば需要があるところに特化できるけど、エリアが散らばっていて移動時間が増えてしまいます。それがエリアで絞ると移動時間は短縮できるけど工事をしたばかりのお客さんがいたりするので効率が落ちる。でもこの中で、山本さんにとって気が進むものと、そうじゃないものがあると思うんですがどうでしょう?」
山本「そうですね。今、木戸さんの話を聞いて『エリアで絞る』のが一番かと思いました。確かに工事後1年のお客さんもいれば10年のお客さんもいるんですが、1年のお客さんであっても関係を切らさないよう顔出ししていけばいいのではって思いました」
木戸「その考え方、素晴らしいです! 今すぐ客だけにアクションするんではなく、中長期的なアクションをしていくことは売上を安定させる上でとても大切なことですからね。では、そのエリアですが地名でいうと、どこになりますか?」
山本「では、東区にします」
アクションを表現する言葉がポイント!
木戸「ということは『誰に?』の部分は『東区の既存客に』決定ですね。では次に『どんなアクションをする?』をブラッシュアップしていきます。先ほど山本さんが言っていたのが『リピート紹介を獲得する』でしたよね。これって『敵対関係の言葉』か『親密関係の言葉』か、どっちかというと、どっちになります?」
山本「『獲得する』なので、親密って感じではないですよね」
木戸「ですね。普段使っている言葉がお客さんに与える印象に大きく影響するのと、『獲得する』という目標を掲げると、どうしてもお客さんと会ったときも『獲得するぞ!』という気持ちになり、それがお客さんに威圧感や圧迫感を与えてしまうことになるので、その言葉を変えるというのはどう思いますか?」
山本「う~ん、考えたこともなかったですが、確かにその通りかもしれませんね。では、何と書けばいいんでしょうか?」
木戸「一番簡単なのは、お客さんがその言葉を見たり聞いたりしたとき、違和感を覚えることのない言葉にするといいです」
山本「この『ひとみるシート』の目的は気にかける技術を身に付ける意味もあるということなので、『気にかけ訪問をする』というのはどうでしょう?」
木戸「それはいいですね! そのほうがお客さんは好意的な印象を持ちますよね。なによりも『気にかけ訪問をする』という言葉にしたことで山本さん自身の気持ちが違ってきませんか?」
山本「確かに温かい気持ちになるというか、優しい気持ちになるというか、こっちの方
がほっこりしていいですね。では『東区の既存客に、気にかけ訪問をする』にします」
木戸「バッチリです!」
行動予定のベストな数とは?
山本「ところで、この『行動予定』は、入力する箇所が3行ありますが、私の場合『ポータルサイト』と『東区の既存客』の2つなんですが、3つないといけないんですか?」
木戸「2つでOKです。会社の体制によっては1つというところもあります。4つ以上ある場合は、3つに絞ります。たくさんあり過ぎると混乱したりどれも中途半端になるので、増やすんだったら『ひとみるシート』を最低3ヶ月続けてからにするといいですね」
山本「以前に木戸さんから聞いていた『現場近隣あいさつ法』をこの機会にやってみようと思うんですが、それはやめたほうがいいですか?」
木戸「山本さんがやりたい気持ちになっているんだったら、ぜひ、やりましょう。ではこの3つで決定なわけですが、優先順はどんな感じになりますか?」
山本「ポータルサイトは相見積もりばかりなので、やっぱり既存客を最優先したいですね。」
木戸「では行動予定の順番を優先順に並び変えてみてください。人は無意識に一番上にあるものに目が行くので、優先順に並び変えるといいです。これで行動予定は完成です!」
【山本さんの2)行動予定】
2−1「東区の既存客に」「気にかけ訪問をする」
2−2「ポータルサイトからの問い合わせに」「気にかけ対応する」
2−3「現場近隣の方々に」「気にかけあいさつをする」
スケジュール予定は決めることからスタートする
木戸「では次『3)スケジュール予定』に行きましょう。先ほど完成した行動予定を1
週間単位でどのくらい行動するか? その行動から商談数はどのくらいになると予想するか? その商談数でどのくらいの契約数が予想できるかを入力します」
山本「単に行動予定を決めるだけでなく、それをどのくらいやるのか行動数を週ごとに入力するということですね。なんか気が引き締まってきますね」
木戸「そうですね。数字を決めることでとるべき行動が具体的になるので、緊張感が高まってきますよね。ただこれはノルマではなく、あくまでも予定なのでリラックスして数字を決めてみてください。では行動予定の1つ目『東区の既存客に気にかけ訪問をする』は1週間にどのくらい行動しますか?」
山本「そうですねぇ。『東区の既存客に気にかけ訪問』の数ですよね? 何か行動数を決める基準とかあるんですか?」
木戸「一番大切なのはまずは決めることです。『ひとみるシート』に入力した数字どおりにいかなくてもOKです。一度、数字を入力することで、『1週間でこんなに訪問できないな』とか『けっこう楽勝だな』とかわかりますからね」
山本「なるほど。根が真面目なもので(笑)数字を掲げると、それを絶対達成しないといけないって強迫観念に駆られてしまうんですけど(笑)、そうじゃないんですね」
木戸「そのとおりです。他にもやることはいっぱいあるので、それとの兼ね合いでどのくらいできるかを明確にしていくことで計画が立つようになりますからね。では気にかけ訪問、1週間にどれくらいできそうですか?」
山本「ん~、1日5件くらいの訪問はやればできるので1週間の行動数は、25件にしておきます」
木戸「了解です。では1週目の行動数は25件ということで、2週目の行動数はどのくらいになりますか?」
山本「すべての週の『東区の既存客に気にかけ訪問』の数は25件にします」
木戸「OKです。では次に、契約数の列に入力をしていきます。1週目に『東区の既存客に気にかけ訪問』を25件やったとき、そこからの契約ってどのくらいを見込みますか?」
山本「そうですね。今までの経験からいうと2~3件って感じですかね」
木戸「了解です。では、今『東区の既存客に気にかけ訪問』の行動数と契約数を決めたのと同じ要領で、残り2つの行動予定『ポータルサイトからの問い合わせ』と『現場近隣』の行動数と契約数を決めてみてください」
山本「了解です」
スケジュール調整で目標の達成率がアップする!
木戸「3つの行動予定すべてを入力したら、次は4)スケジュール調整に行きましょう。ここでは1)『目標』に入力した契約数、商談数と、3)『スケジュール予定』の数字が一致するように調整をします」
山本「目標が契約10件で商談15件でしたが、スケジュール予定の合計は『商談計』が16件、『契約計』12件で、一致してませんね。この場合どこを調整すればいいんですか?」
木戸「調整するときは、商談数と行動数を確認するといいです。まず商談を見ると毎週約4件ペースですよね。そして行動数を見るとポータルサイトの対応が週に2~3件、既存客が25件、現場近隣が9件。商談数を最優先することになるので、そうしたとき、この行動数は可能なのかを見るんです。いつもこんな感じの行動数なんですか?」
山本「いえ。目標必達しようと、ちょっと頑張りました(笑)」
木戸「この1週間の行動数を毎週続けるのは現実的に可能なものなんですか?」
山本「う~ん……。ちょっとキツイかもです(苦笑)」
木戸「まずは、そこを調整しましょう。明らかにキツイと思うことは続かないので、それじゃ絵に描いた餅になってしまいます。どれが頑張りすぎた感じですか?」
山本「既存客ですね。1日5件じゃなくて3件にします」
木戸「そうすると1週間15件ということですね? それに合わせて商談数と契約数も調整するとどうなりますか?」
山本「じゃ調整してみますね。あれ? スケジュール予定の契約数の合計が8件で、目標の契約が10件と合わなくなりました。これはどうするんですか?」
木戸「どっちに合わせるという決まりはないので、その場合は山本さんがどっちを選ぶか、です。たとえば、目標の10件を選んだ場合、契約を増やせる可能性が高い行動予定、つまり今回の話でいうと『東区の既存客に気にかけ訪問』の行動数を増やす。そうして目標10件を達成する。というのもありだし、急用が入ったりすることもあるし、無理なく続けられるよう目標契約数8件を選ぶというのもありです」
山本「う~ん……。悩むところですね。今までどちらかというと無理をして結局それが墓穴を掘るってケースが多かったので、目標契約数8件にします」 木戸「OKです。このブロック1『数字メンテナンス』は完成です。おめでとうございます! 『数字メンテナンス』の目的は、こうやって数字を調整することにプラス、目標契約数をチャレンジする数字にするのか? バランスを見るための数字にするかを決めるためのブロックでもあるんです」
山本「こうやって週毎に計画を立てるということはやったことがなかったので、いかに今までが行き当たりばったりでやっていたんだなぁって思ってしまいますね」
木戸「これからはこうやって計画を立てることで、目標の達成率が確実にアップしますよ。そして次の『ブロック2』を入力していくことで、その計画を実行する上で具体的に何をすればいいかが明確になりますので、楽しみにしてください!」
3章 「ひとみるシート」の核心部分はここにある!
ここが「ひとみるシート」の核心部分だ!
木戸「では『ひとみるシート』の核心部分となる『ブロック2』に行きますね! ここには先ほど入力した3つの行動予定それぞれの詳細を入力していきます。それが次のa~cの3つの項目です。週に1回、この3つの問いに答えることで超営業力が着実に備わり、数字が伸び出しますよ」
a【ひとりをイメージする】その人の名前は? 何歳? 性別は? 家族or社員は? 何をしている人? (不明部分や新規の場合は妄想)
b【関係性】出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現すると?
c【笑顔の妄想】aとbを参考にその人が笑顔になるよう、どう気にかけ(問いかけ)どんな笑顔の返答が来るか妄想する
山本「私の例でいうと、どうなりますか?」
木戸「先ほど決めた山本さんの行動予定の『東区の既存客に気にかけ訪問をする』を例に説明しますね。まず確認です。この『ひとみるシート』を実行する第1週目が来週で、この行動予定の件数が15件とスケジュール予定を決めました。これは間違いないですか?」
山本「はい、そのとおりです」
木戸「ではa【ひとりをイメージする】の部分からいきますね。来週、東区の既存客に気にかけ訪問を15件するわけですが、その15人の中でパッと顔が浮かぶお客さんをひとり上げるとしたら誰になりますか? この人の名前を教えてください」
山本「パッと浮かんだお客さんは、武藤さんです」
木戸「では武藤さんの年齢と性別、家族、職業を教えてください」
山本「たぶん60歳代だと思うんですが。性別は女性で、家族はご主人と20代後半の娘の3人家族だったと思うんですが、違うかもしれません。あと、たぶん専業主婦だと思います。これ、お客さんに聞かないといけないものなんですか?」
木戸「もちろん事情聴取するみたいに年齢は? 職業は? と聞くのではなく、会話をする中で『ところで○○さんって、車のことメチャ詳しいんですが、車関係のお仕事なんですか?』と気にかけることです。こういった感じで〝お客さん〟と一緒くたにしないで目の前のひとりを見ること。そのことで、お客さんの笑顔を増やすきっかけが見つかるようになります。これがこのシートの目的でもあります」
山本「というと、わからない部分は空白でいいということですか?」
木戸「実はそこがポイントで、わからない部分は妄想するんです。そして、すべての問いに入力する。空白は作らないのがポイントです。山本さんが『たぶん60歳代』と言っていた部分は『60歳代?』というように語尾に『?』を入れておくといいです」
山本「質問があるんですが、わからない部分を妄想するっていうのは、どういう意味があるんですか?」
木戸「妄想することは〝気にかける〟ことでもあるんです」
山本「え? どういうことですか?」
木戸「たとえば山本さんが、『武藤さんは3人家族かなぁ? それとも4人家族なのかなぁ?』と妄想するというのは武藤さんにエネルギーを使っていることになるので〝気にかけている〟ことにもなるんです」
山本「なるほどぉ。そんなこと考えたことなかったです」
木戸「では今、山本さんが答えたことをaの部分に入力してみてください」
a【ひとりをイメージする】その人の名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 何をしている人?(新規の場合は妄想)
その人の名前は=武藤さん(仮名) 何歳=80歳代? 性別は=女性 家族は=ご主人、20代後半の娘の3人家族? 何をしている人=主婦?
山本「この件でもうひとつ聞いてもいいですか? 武藤さんの場合は既存のお客さんなので、こうやって答えることができるんですが、行動2の『ポータルサイトからの問い合わせ』の場合は、すべて初めて会うお客さんになるんですが、こういった場合はどうしたらいいんですか?」
木戸「はい、その場合も妄想します。あるトップ営業マンから、妄想についてこんな話を聞いたことがあります。法人の新規開拓をするのにテレアポしてアポイントが取れたとき、訪問する数日前に一度その会社の様子を見に行くことを必ずしているというんです。その会社の建物はどんなビルなのか? そのビルにどんな人が出入りしているのか? 周りにはどんなお店があるのか? といったことを観察し、それをもとに社内の様子を妄想することで気持ちに余裕が持てるし、それを話題のネタにしているというんです」
山本「なるほど。そうやっていろんな情報を知ろうとすることに、ひと手間かけているからトップ営業マンなんですね」
木戸「そうです。反対に売れないケースは、相手を知ろうとすることより「商品のメリットをわかってもらおう」と〝商品〟に焦点を当てているからです。昔の私がそうだったんですが(苦笑)それが「3人家族と妄想したけど実際はどうなんだろう?」と妄想することで〝人〟に焦点が向くようになるんです」
山本「なるほどぉ。妄想の大切さがイメージできました!」
関係性を明確にすることでやるべきことが見える
木戸「では次b【関係性】に進めますね。ここでは次の5つの項目があります。ここにある項目は、a【ひとりをイメージする】で山本さんがひとりのお客さんとして武藤さんを上げましたよね。その武藤さんに関しての問いになります」
b【関係性】出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現すると?
山本「つまり武藤さんと出会ってどの位で、何度会ったか? といったことを答えていけばいいんですね」
木戸「そのとおりです。ここの目的は関係性を明確にしていくこと。ここを明確にしないことには笑顔になってもらうことはできませんからね。では順番に行きましょう。武藤さんとは、初めて出会ってから年月日単位でいうと、どの位になりますか?」
山本「私と会ってからは3年くらいになります。3年前に武藤さんを担当していた社員が辞めて、それで私が引き継いだお客さんなんです」
木戸「ではシートには、『出会って3年』ということと『前任者から引き継いだ』ということを入力すればいいです。前任者が武藤さんと契約したのは何年前になりますか?」
山本「8年くらい前になります」
木戸「では、そのこともシートに入力しておいてください。次の項目は『何度会った
か?』ですが、山本さんが武藤さんと会った回数は何回位になりますか? 電話をした場合もその回数を教えてください」
山本「電話は1回もないです。私が引き継いで3年になるので、会ったのは3回です。カレンダー渡しはすべてのお客さんにやっていて、武藤さんは毎回お会いして渡しています」
木戸「その会った回数と、カレンダー渡しを毎年したことも入力するといいです。では次の項目が武藤さんから聞いた他愛もない話はどんなのがありましたか? 仕事にまったく関係ない話です。しょうもない話、どうでもいい話とかなかったですか?」
山本「仕事にまったく関係ない話ですか? なんか話したと思うんですが、いざ聞かれると出てこないですねぇ」
木戸「大丈夫です。仕事の話は覚えているけど仕事に関係ない話は覚えていないのが一般的です。だからこそ、今後は他愛もない話を覚えておくことでお客さんとの人間関係づくりがスムーズに行くようになるんです」
他愛もない話の重要性に気づいている人は極めて少ない
山本「本当に他愛もない話をしていない場合は入力しなくていいですか? たとえばポータルサイトからの問い合わせの場合、電話やメールになるので、そこで他愛もない話を問いかけたりできないじゃないですか?」
木戸「たとえば電話で問い合わせを受けた場合、お客さんの声を聞いて『明るい人』と感じたならそれを入力するんです。こんな感じで少しでもお客さんのことを知る手がかりになったものを入力するのがポイントです。」
山本「それでいうと武藤さんは、風景や生き物をカメラで撮るのが趣味のようで、その写真を飾っていましたね」
木戸「いいですね! 今後はそういった話を能動的に気にかけて、それを覚えておくといいです。それが信頼されるようになる一番のことですからね」
山本「ある程度の雑談は必要だと思いますが、それが信頼される一番のことになるんですか?」
木戸「そうです。他愛もない話を気に留めておくことは極めて重要ですよ。この重要性に気づいている人はメチャ少ないので、大きなチャンスなんです」
山本「というと?」
木戸「ひとつ事例を紹介しましょう。今まで商談の場になかなか到達できず、苦しんでいた保険営業Kさんの話です。会話が弾まなくて訪問しにくくなっていたお客さんがいたんです。そのお客さんが興味を持つ話題がないかと、話題のニュースや天気、旬の食べ物などを考えていたんですが、Kさんは会話が弾むイメージがまったく持てず。これってどうしてだと山本さんは思いますか?」
山本「話題のニュースや天気とかって、ありきたりというか当たり障りがないからですか?」
木戸「そうですね。違う見方をすると、その話題ってお客さんとKさんの外側にある話題ですよね。そこではなく、そのお客さんとKさんが話したことを気にかけた方が、会話が盛り上がりやすいと思いませんか?」
山本「まあ確かにそうですね」
木戸「そこでKさんが入力したシートの『他愛もない話』の項目を見ると『スポーツジムに通い始めた』と書いてあったんです。これをヒントにそのお客さんを訪問したとき『ところで、スポーツジムに行ってどのトレーニングマシーンが一番、楽しいですか?』と気にかけると、お客さんが『それがね、実は怪我しちゃって行ってないのよ』と今までにないくらいにしゃべり始めたと言うんです」
山本「そう言われると、私もそんなことが何度もあったのを思い出しました」
木戸「ですよね。それを偶然に任せるんじゃなくて、意識をして他愛もない話を気に留めて置くんです。そうすることで偶然ではなく必然になりますからね。その保険営業のKさんは、スポーツジムの話で盛り上がったあと、お客さんのほうから『一度保険のことで相談にのって欲しいんだけど』と言われ、いとも簡単に契約になったというんです」
山本「確かにそうやって会話が盛り上がって気持ちが打ち解けたら、一気に契約になったりってありますよね」
木戸「ですよね。ここメチャ重要で、『商品の必要性をわかってもらおう』とか『商品メリットを知ってもらおう』とするんではなく、山本さんの言うとおりお客さんの気持ちが打ち解けることが最初のステップで、商品の話はそのずっとあとのステップでいいんですよね」
山本「それが月末で数字が足りないと、つい先走ってそのステップを飛ばしてしまうことが多々ありますね(苦笑)」
木戸「私も他愛もない話の重要性に気づかないときは先走ってばかりだったので、その気持ちよくわかります。理解を深めるためにひとつ質問してもいいですか?」
山本「どうぞ」
いつも話が続かなかった社長と30分も会話が盛り上がった!
木戸「顧客管理ソフト販売営業をしているTさんの話ですが、追加提案するために何度もアプローチしているお客さんがいて、今まで5~6回アプローチしてきたけど、いつも「あ~ごめんね、ちょっと忙しいんで」と言われ話が中断して前に進まない状態なんですが、山本さんだったらどうしますか?」
山本「それは見込みナシでしょ。忙しいんでなく明らかに断り文句で言ってる感じがするので、私だったら2~3回アプローチしてそんな感じだったら見切りつけますけどね」
木戸「まあ顧客でもあるので6回もアプローチできたんだと思いますが、でも諦めたくないTさんは『ひとみるシート』にそのお客さんのことを書いたんです」
山本「ねばりますね」
木戸「シートの「他愛もない話」の項目を見ると『娘さんと目黒にあるステーキ屋に行く予定』と書いていたので、これを気にかけようという話になったんです」
山本「で、どうなったんですか?」
木戸「そしてその会社に訪問したとき『そういえばこの前、娘さんと目黒にあるステーキ屋に行くのを楽しみにしているっておっしゃってましたけど、娘さんと行けたんですか?』と気にかけると社長は『え?』と言って一瞬、間が空いたというんです」
山本「どういうことですか?」
木戸「社長はその話を忘れていたようなんです。そして思い出した瞬間、『あ~! あの話ね! よく覚えてるねぇ! 実はあれ娘が都合付かなくって行けなかったんだよ』とその社長がしゃべり始めて、今まで話ができなかったのが30分近くも話ができて、新たなソフトの見積もり依頼を受けるという結果になったんです。自分で言ったことを忘れるくらい他愛もない話を気にかけられたら、誰だって驚いて笑顔になるって思いませんか?」
山本「確かにそれは驚きますね! 簡単に諦めちゃダメだってことですね」
木戸「それもあるんですが、Tさんが娘さんの話をしっかり気に留めておいたからだと思うんです」
山本「それにしても、よくそんな話を聞けましたね。今まで話ができなかったわけですよね?」
木戸「さすが山本さん、いいところに気づきましたね! そこがTさんの凄いところで、普段から『ところで、お子さんはいらっしゃるんですか?』とか『社長はAB型ですか?』といった他愛もない話を意識して問いかけていたっていうんです」
山本「なるほどぉ。何事も徹底して実践することが大切ってことですね」
木戸「それにプラス他愛もない話の重要性をしっかり理解しているところが素晴らしいです。先ほど紹介した保険営業のKさんも顧客管理ソフト販売営業のTさんも他愛もない話を意識するようにしてから、7割以上の確率で会話が弾むようになったというので偶然ではないですよね」
山本「う~ん、こうやって話を聞くと、ほんと他愛もない話って重要ですね」
スケジュール調整で目標の達成率がアップする!
木戸「他愛もない話の重要性が理解できてよかったです。では次の項目『仕事関係の話は?』に行きますね。これはスラスラ出てきますよね(笑)」
山本「はい。こっちのほうが楽に出てきます(笑)武藤さんは8年前に屋根壁塗装をやっているということと、前任者から聞いた話で家を大切にしているって言ってましたね」
木戸「この項目もどんな些細なことも、どんどん入力してください。忘れてしまいそうなくらい小さな仕事の話にこそ、お客さんがさらに笑顔になるヒントが隠されていますからね」
山本「仕事関係の話はそんなところですかね」
「見込みランク」ではなく「親密度」で判断する
木戸「了解です。では次の項目『親密度をABCで表現すると?』です」
山本「見込みランクではないんですね」
木戸「それとは、まったく別物です。『見込みランク』というのは、契約に焦点を当てたものなので『自分スポットライト』の考え方になってしまいます。そうではなく『相手スポットライト』になるよう『親密度』という観点で判断するんです」
山本「そうやって言われると確かに『見込みランク』というのは、こっち都合の話ですね」
木戸「お客さんに『あなたは見込みランクAです』なんて言わないですよね。お客さんの前で言わないことは、お客さんのいないところでも言わない。常に一貫させることで、気にかけが伝わるようになりますからね」
山本「う~ん、そんなこと考えたこともなかったです」
木戸「それが営業の常識みたいになっていましたからね。なので、今が変えるチャンスです。それで親密度が高いと感じるお客さんはA、低いと感じる場合はC、その中間にあたると感じるのはBというように入力します」
山本「そのAとかBというのは、私が感じた親密度を入力するんですか? それともお客さんが私をどう感じているかを想像して入力するものなんですか?」
木戸「さすが山本さん! いいところに目が留まりましたね! その両方の観点から親密度がABCどれにあたるのかを入力するんです」
山本「両方なんですね」
木戸「山本さんの直感でOKなので、両方の観点でみることを繰り返すことで、親密度を判断できる力が付いてきます。そうすると武藤さんとの親密度は、ABCどれになりますか?」
山本「う~ん、Bにしておきましょう」
木戸「Bですね。これでb【関係性】の項目は完成です」
b【関係性】
出会ってどの位?=3年(前任者引き継ぎ) 何度会った?=3回 聞いた他愛もない話=風景や生き物をカメラで撮る、家にその写真を飾っている カレンダー渡し3回 商品関連の話は?=8年前屋根壁塗装、家を大切にしている 親密度をABCで表現すると?=親密度B
お客さんとの距離感を見る
山本「この『親密度』について質問いいですか? 『見込みランク』というのは『自分スポットライト』の考え方というのはわかるんですが、見込み度が低いところに行っても売れないじゃないですか? なので目安として『見込みランク』という見方も必要だと思うんですが、この点どうなんですか?」
木戸「利益を追求するのが会社の目的なので売れる、売れないを判断するのは大切です。ただそれがお客さん側から見たとき、どう感じるかを想像するといいと思うんです。山本さんがお客さんの立場になったとして、目の前にいる営業マンが『売れる、売れないでしか人を見てないなぁ』と感じたとしたら山本さんはその営業マンをどう思いますか?」
山本「商品を買うつもりでいたとしても、そんな営業マンからは買わないですね」
木戸「ですよね。普段から『見込みランク』という見方をしていると、それはお客さんに伝わりますからね。なので普段から使う言葉や焦点を当てるところを『いかに売れるか』ではなく『いかに笑顔になってもらうか』に変えるんです」
山本「それはわかるんですが、目安になるものがなくなると行動しにくくなりませんか?」
木戸「その目安にするのが『親密度』です。『見込みランク』という売れる売れないではなく、『親密度』というお客さんとの距離感を見るんです」
山本「距離感ですか? ピンとこないんですが……」
同じトークが親密度によって逆転する
木戸「売ることやトーク、ツールに意識が向いてしまうと、距離感を見る意識が飛んじゃうんですよね。わかりやすいように、あるリフォーム会社の営業ミーティングの話をしますね。社員のUさんがお客さんに『屋根が傷んでいる箇所があったので写真を撮っておきました』と伝えたところ、『やっぱり年数経ってるからね。ありがとう』と喜ばれて屋根工事を受注したと発表があったんです」
山本「はい……」
木戸「これを聞いた同僚のSさんがひらめいたんです。『そうっか! 今ちょうど工事現場があって、その隣の家の屋根が傷んでいるのを発見したので、Uさんのトークを使えばいいかも!』そして、その隣の家の人に『隣で工事をしている〇〇会社のSと申します。突然ですが工事をしていたとき、ちょっと屋根の傷みが気になりまして。もしご存じでなかったらと思い写真を撮ったんですが、こんな感じで傷んでまして、ご存じでしたか?』と言ったんです」
山本「そうしたら?」
木戸「すると、その隣の人は『知らないですが、うちは大丈夫ですから』と迷惑と言わんばかりの顔で玄関のドアを閉められたと言うんです。トークは同じなのにUさんは契約になり、Sさんは断られる。この違いってどこにあると思いますか?」
山本「それが距離感ってことですね。確かにトークだけで見るのではなく、距離感を見ないとだめですね」
木戸「Uさんの場合、契約前の商談で3回、契約後も工事前の打ち合わせや工事中の管理などで7回お客さんと会い、笑顔で会話を交わす親密度Aの関係です。一方のSさんは、工事前のあいさつで1回会っただけの親密度Cの関係。距離がまったく違うことに気づけるために、いつも親密度を確認する。その上で言葉を選ぶのも、〝気にかけ〟ですからね」
山本「なぁるほどぉ~。『距離の違いに気づくために親密度を確認する』かぁ。これ大切ですね」
木戸「親密度を確認することで目的も明確になりますからね。今現在『親密度C』のお客さんがいたら、次にアプローチするときは『親密度B』をゴールに、それが達成できたら『親密度A』をゴールに、次は気になることがあるかの確認をゴールにする。といったように気にかけて行くんです」
山本「だんだん見えてきました。『ひとみるシート』って奥が深いんですね」
木戸「めちゃ深いですよ。では、『ひとみるシート』最後の項目に行きますね。最後はc【笑顔の妄想】です。武藤さんが笑顔になるよう、どう気にかけて、どんな笑顔の返答が来るかを妄想するんです」
なぜ「想像」ではなく「妄想」なのか?
山本「『笑顔を想像する』のではなく『笑顔の妄想』ですか?」
木戸「そうです。〝妄想する〟んです。『想像』より『妄想』のほうが「自由」な感じがしませんか?」
山本「まあ、確かに自由な感じはします」
木戸「かなり昔の話でセミナーを開催したとき、参加者に『〇〇について想像してください」と問いかけると、多くの人がなかなか想像できないようなんです。きっとこれって『何か正しい答えを言わないと』と勝手に思い込んでいるのではと思って、『妄想してください』と言い換えたら多くの参加者が、なにかしらの発言をするようになったんです」
山本「そういう意味だったんですね。確かに楽に答えられる感じはありますね。でも、いきなり武藤さんの笑顔を妄想しましょう、と言われても、どのタイミングなのかにもよりますよね?」
木戸「はい。今からその話をしますね。では具体的に武藤さんの笑顔の妄想をしていきましょう。まず武藤さんに笑顔になってもらったゴールを確認したいんですが、たとえばお風呂工事とか外壁塗装工事が受注になったらいいなぁとか、どんなゴールを考えていますか?」
山本「そういった話が武藤さんとはまったくできていないので、何か必要としていることがあるのか武藤さんに確認したいと思っています。ただ、武藤さんとの間にはまだ壁があって、そう言った話ができる関係になっていないので、どんなリフォームを必要としているかを確認するのはもう少しあとかと」
木戸「了解しました。さすが山本さん。関係性をしっかり意識しますね。では、山本さんが来週、武藤さんのところに気にかけ訪問を計画していますが、その訪問のゴールは何を考えていますか?」
山本「なるほど。ただ単に気にかけ訪問するということではなく、ゴールを決めるんですね。そうするとゴールは壁がなくなることですかねぇ」
木戸「そのとおりで、訪問でも電話、手紙、メールをするんでも、そのときのゴールは何かを決めておくことです。今、武藤さんとの親密度はBですよね。それであれば、『壁がなくなる』というのを『親密度Aになる』というゴールにするのはどうですか?」
山本「あ~、そっちの方がいいですね。さっき木戸さんが言っていた現在『親密度C』だったら次にアプローチするときは『親密度B』を目的に、それが達成できたら『親密度A』ということですね。理解できました」
笑顔が2つの壁を外す
木戸「よかったです。では、どうしたら『親密度A』になるかということですが、山本さんはどうしようと考えていますか?」
山本「世間話をするのが一番だと思っていますが」
木戸「山本さんは世間話をすることで仕事の話になってますが、社員の中で世間話をしてもそうならないという話はないですか?」
山本「一人いますね。何度も営業同行したり雑談するようにと言ったりしてるんですが、なかなか難しいですね」
木戸「実は世間話をしてもお客さんと仲良くなっても、仕事の話につながらないという相談は多いんです。一方で山本さんのように仕事の話になる人もいるわけですが、その違いってなんだと思いますか?」
山本「さっき言った何度も営業同行してる社員を見ていると、一種の才能なのかなぁっと思ったりしますが」
木戸「実はいろいろ調べる中で、世間話をして仕事の話になる人と世間話で終わってしまう人、2つの違いがあることがわかったんです」
山本「2つの違いですか?」
木戸「そうです。間違いなく山本さんはやってることですが1つは、お客さんに笑顔になってもらうことを能動的にやってますよね?」
山本「あ~、そう言われると確かに『絶対笑かすぞぉ』みたいな感じで話してますね」
木戸「ですよね。それともう1つは、壁を外して会話をすること。山本さんの場合、これをどんなお客さんでも無意識にやっていると思うんです」
山本「はぁ~! それですね! 木戸さん、メモさせてもらっていいですか? いや実はよく社員にお客さんが持つ壁を外すのが営業マンの本当の仕事だって言ってるんです。その壁っていうのは警戒心からできるもので、まずはその壁を外すことが第一。外壁塗装工事をするとき、必ず外壁の汚れを洗浄してから塗装をするのと同じように、警戒心を解くことをしないで商品の話をしても壁が邪魔になってお客さんの耳には入らないって言ってるんです」
木戸「その例え話、とてもわかりやすいですね」
山本「今の木戸さんの話で気がついたのは、お客さんが作る壁と社員が作る壁と2つあるということです。確かに世間話で終わっている社員は、自分で壁を作りながら話しています。これは目から鱗です」
木戸「笑顔を能動的に、というのと壁を外して会話をする。この2つを同時に解決するのが、笑顔の妄想のフォーマットにあるんです。それが『その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔返答が来るか妄想する』なんです。自分で壁を作っている営業マンが、笑顔になる気にかけをして相手が笑顔になった瞬間『あ~、笑顔になってくれたぁ』と安心します。その数が増えることで自分で作っていた壁が自然に取れてくるんです」
山本「なるほどぉ。確かに何度もお客さんの笑顔を見ることで、自分で作った壁は取れていきそうですね」
木戸「もしそれでも壁が取れないとしたら、単に笑顔にしている回数が少ないだけ。じゃどうしたらいいかというと、もっと能動的に笑顔にしていけばいいだけ。非常にシンプルなんです。なので武藤さんの笑顔の妄想は山本さんが普段やっていることをフォーマットに当てはめるだけでいいです。そのことで山本さんが無意識でやっていることが言語化されるので、社員にも伝わるようになりますよ」
山本「『ひとみるシート』の使い方を社員に教えるために木戸さんからレクチャーを受けてますが、私もこのシート使った方が良さそうですね」
笑顔の妄想はゼロから考えない
木戸「そうですね。3ヶ月くらい社員と一緒にやってみてもいいと思いますよ。では、武藤さんに対しての『笑顔の妄想』を考えていきたいんですが、先ほど山本さんが、どのタイミングの笑顔を妄想したらいいか? と言ってましたよね。実はこのタイミングもメチャ重要なんです。山本さんはどのタイミングがいいと思いますか?」
山本「タイミングですか? さっぱり見当がつきませんが」
木戸「これも関係性を見るのがポイントです。お客さんの気持ちがまだ開いていない『親密度C』と『親密度B』は、あいさつ直後のタイミングの『笑顔の妄想』を考えるんです。スタートの段階でお互いに笑顔になれば、そのあとの会話がスムーズになりますからね」
山本「なるほど。何事もスタートが肝心ですからね。あいさつをしたあとの笑顔ねぇ~、改めて笑顔って言われると考えてしまいますね」
木戸「最近始めた手作り新聞を渡すタイミングなら笑顔の妄想がしやすいと思うんですが、どうでしょう?」
山本「それはいいですね。あっ、なんか妄想できました。前回『こんにちは、◯◯の山本です!今日は武藤さんに元気をもらいに伺いました』と言ったら『あ~、なんか用かい?』って素っ気ない感じなんですが、その後『今月から手作り新聞をはじめたので、まずは武藤さんに見てほしいと思って出来立てホヤホヤの新聞をお持ちしました』というのはどうですかね?」
木戸「いいですね! そういった自然な感じの妄想がいいです! そう言って手作り新聞を渡したら武藤さんは、どんな笑顔の返答が返ってくると妄想しますか?」
山本「素っ気ない人なんだけど手作り新聞を渡せば『そりゃご苦労さん、どれどれ』と言って手に取ってくれそうですね」
木戸「いいですね。そこで重要なのが『そりゃご苦労さん、どれどれ』と言って手作り新聞を手に取るときの武藤さんが笑顔になっていると妄想できるかどうかですが、その点どうですか?」
山本「思いっきり笑顔になる人ではないんですが、少し話すと楽しそうに喋ってくれるので笑顔になる妄想はできます」
木戸「それならOKです。あと『笑顔の妄想』を考えるときの一番のポイントは、ゼロから考えるのでなく先程入力したa【ひとりをイメージする】b【関係性】の2つを確認し、そこから笑顔の妄想ができるネタを探すこと。ここに武藤さんの笑顔の妄想ができるネタはありませんか?」
山本「あります。武藤さんが最近撮った写真ですね」
木戸「さすが山本さん! それは絶対に忘れてはいけない話ですね! ではシートに入力すれば、『ひとみるシート』の完成です! おめでとうございます!」
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ(問いかけ)、どんな笑顔の返答なのか妄想する?
アポなし訪問で「こんにちは、◯◯の山本です!今日は武藤さんに元気をもらいに伺いました」「あ~、なんか用かい?」「はい、今月から手作り新聞をはじめたので、まずは武藤さんに見てほしいと思って出来立てホヤホヤの新聞をお持ちしました」と笑顔で気にかけ「そりゃご苦労さん、どれどれ」と武藤さんが笑顔で返答すると妄想。※最近撮った写真のことを気にかける
情報がないお客さんの笑顔はどう妄想するか?
山本「ところで、笑顔の妄想ですが、ポータルサイトからの問い合わせの場合、新規なので何も情報がないのと要件のみの話がほとんどなので、笑顔の妄想のしようがないんですが、こういった場合どうしたらいいんですか?」
木戸「2つ方法があります。それは、『目を留める方法』と『作る方法』です」
山本「というと?」
木戸「1つ目の『目を留める方法』は、『関係性』の説明をしたときの話を覚えてますか? 『法人の新規開拓でアポイントが取れると訪問する数日前に一度その会社の様子を見に行くトップ営業マンがいる』という話です」
山本「覚えてますがそれは法人営業だからできますが、私の場合は個人宅なので……」
木戸「法人も個人も同じですよ。問い合わせが来たお宅に行く前に、一度そのお宅の周りの様子を見に行くんです」
山本「様子を見るといっても何を見ればいいんですか?」
木戸「私がよくやっていたのは、飲食店を見つけることです。たとえば、問い合わせが来たお客さんのお宅に行く途中に、美味しそうなラーメン屋さんがあったとします。これを笑顔の妄想に使えないですか?」
山本「なるほど! それは使えますね! あいさつをしたあと『ところで今来る途中に○○○軒という美味しそうなラーメン屋さんがあったんですが、そこに行かれたことあります?』という感じで気にかけるということですね」
木戸「さすが山本さん! 今までそういったことやってたんじゃないですか? めちゃ自然でしたよ。」
山本「確かに似たようなことをやってました。これはいいですね! でも、そういった美味しそうな飲食店が見つからない場合はどうしたらいいんですか?」
木戸「見つけようとしないことです」
山本「え? どういうことですか?」
木戸「見つけようとすると、『いいネタはないか?』ってあれこれ選んでしまい、笑顔の妄想に使えるネタはなかった……。となってしまうので、見つけようとしないで『目を留める』んです。そして、その目が留まった飲食店やお店などを「もしかしたら餃子が美味いかも」と妄想するんです」
山本「なるほどぉ~! いいネタがないか、いろいろ選んでしまうから見つからない、となってしまうので目を留めて、これも妄想するのかぁ~。妄想力が鍛えられますね! で、もうひとつの『作る方法』というのはどういうことですか?」
木戸「ツールを作るんです。といってもゼロから新しいものを作るのではなく、たとえば、普段使っている名刺をちょっと工夫してみるとか」
山本「あ~、今、四つ折りとか八つ折り名刺とかありますが、そういったことですか?」
木戸「それもいいんですが、名刺の大きさをA4サイズにして、内容をすべて手書きにしたものを作るのもひとつのアイデアです」
山本「それは面白いですね! それに今、手書きってなかなか見ないので印象付けできるのと、温かみがあっていいかもですね!」
木戸「そのA4サイズの名刺を渡すときも、お客さんに『大きな名刺と小さな名刺、どちらをお渡ししましょうか?』と気にかけたら、さらに笑顔になる感じがしませんか?」
山本「それは面白そうですね! 早速使わさせてもらいます。そうやって事前に笑顔になるツールを用意しておけばいいということですね」
木戸「そうです。こんな感じで『どうしたら契約になるか?』と眉間にシワを寄せながら仕事をするより、『どうしたら○○さん、笑顔になるかなぁ』と妄想しながら仕事をしたほうが社内の雰囲気もよくなるし、成果も出やすくなると思いませんか?」
山本「ほんと、そのとおりですね。ただどうしても売上が上がらないと眉間にシワを寄せてしまいますが、でもこのシートを使うことで変わりそうな感じがさらにしてきました!」
「1週目シート」と「2~4週目シート」の違いは、この2項目!
木戸「ここまでは『1週目シート』の使い方を説明してきましたが、ここからは『2~4週目シート』の使い方について説明していきますね。違いは『ブロック1』の数字のメンテナンスの部分が違うだけで、それ以外は『1週目シート』と同じです。まずは実際の『2~4週目シート』を見ていきましょう」
山本「『先週の笑顔の妄想の実践結果』と『改善点』の2つが加わったんですね」
これで笑顔の意識が根付く!
木戸「そうです。2つの項目が増えただけです。では、『2 先週の笑顔の妄想の実践結果』から説明しますね。ここには先週入力した『1週目シート』」の『笑顔の妄想』がどのくらい実践できたのかを%で入力します」
山本「完璧にできたら100%で、半分くらいだったら50%という感じで、自己判断で入力すればいいんですか?」
木戸「そうです。自己判断です。%を付けるポイントは、シートに書いた『笑顔の妄想』の文言を一字一句そのまま言えたことではなく、笑顔で気にかけられてお客さんも笑顔で返答したかで判断することです」
山本「どこを切っても笑顔っていうことですね」
木戸「そうです。それと笑顔の妄想が実践できなかったとしても0%にはしないことです。ほんの少しでもできたこと、やっていたことを探し出すんです。たとえば、『笑顔の妄想に書いたことをやるぞ!』という気持ちはあったもののお客さんを前にしたとき緊張してまったく言えなかった場合は「0%」ではなく、『やるぞ!』という気持ちで臨んだので「30%」にするとか」
山本「なるほど! ほんのわずかでも、なにかできたことを探すということですね!」
木戸「そのとおりです。ほんのわずかでも、なにかできたことを探すことで自信が蓄積されますからね。それともうひとつ、このように『笑顔の妄想』の実践結果を毎週確認することで笑顔の意識が確実に根付くのが目的です」
山本「やりっ放しにするのではなく、こうやって振り返ることで本当に超営業力が身につく感じがしてきました!」
お客さんを知ろうとするアンテナ感度がアップする!
木戸「では新たに増えた項目2つ目は『改善点』の説明をしますね。先週入力した『1週目シート』の『笑顔の妄想』の改善点を一言で入力します。改善点のポイントは『こうしたらお客さんは、もっと笑顔になったのかもしれない』と思うことを探し出すことです。」
山本「『もっと笑顔に』ですか? これは鍛えられますね」
木戸「最初は、なかなか見つからないかもしれませんが、『もっと笑顔に』を探し出そうとすることを毎週続けることで、目の前の人を知ろうとするアンテナ感度が高くなり、関係づくりの楽しさがジワジワ感じるようになりますよ。『もっと笑顔に』を探し出すコツがつかめるよう、営業マンHさんの例を紹介しましょう」
c【笑顔の妄想】
遠藤さん(お客さん)が笑顔になるよう、ひととおり工事着工のあいさつを終えたあと「ところで赤と黄でしたらどちらがお好みですか?」と気にかけ、遠藤さんが答えた色のティッシュを渡したら「ありがとう」と笑顔の返答がくると妄想する。
木戸「この『笑顔の妄想』の実践結果は100%でした。つまり遠藤さん(お客さん)は笑顔になったわけですが、ここから『もっと笑顔に』を探し出したとき、どんな答えが出たと思いますか?」
山本「これ、完璧じゃないですか。私も真似させてもらおうと思ったくらいなので、改善点ないんじゃないですか」
木戸「ですよね。それをHさんはしっかり探し出したんです。その改善点は『実物のティッシュを見せる』です」
山本「というと?」
木戸「Hさんはこう考えたと言うんです。『どちらがお好みですか?』と聞くだけでなく、ティッシュの実物を見せて『どちらがお好みですか?』と気にかけた方が、さらに笑顔になるのではと」
山本「なるほど! その気にかけ精神は素晴らしいですね!」
木戸「そうなんです。さらに実践結果と改善点を発表したあとHさんは、こうも言っていました。『こうやって先週実践したことを改めて振り返ることってないので、とてもいいと思いました。実はティッシュを見せるというのは渡す前に思ったことで、実際に渡すときはすっかり忘れて(汗)改善点を書いていたときに、思い出すことができてよかったです』と」
山本「確かにそのときに『あ~しよう、こうしよう』と思っても忘れることってありますね。なるほど、そういったことを改善点に書くのもありということですね」
木戸「そうです。そんな感じで何かちょっとしたことを探し出すトレーニングと思えばいいです」
山本「それにしても、この改善点を入力する枠が小さいですけど」
木戸「はい。これも物事を端的に伝えられるようになるトレーニングで、自動的にお客さんにもより伝わるようになりますよね。ここまで『2週目シート』の説明をしてきましたが、『3週目シート』も『4週目シート』も同じように入力していきます」
山本「確かに『ひとみるシート』を毎週やれば力がつきますね!」
「先月の結果シート」でさらに成長を目指す!
木戸「前章で『ひとみるシート』は5つのシートで構成されているとお伝えしましたが、いよいよ最後5つめの『先月の結果シート』を説明しますね。まずは左のシートの実物をご覧ください」 山本「『先月の結果シート』はスッキリしてるんですね」
木戸「そうです。このシートの目的は1ヶ月の結果を見ることです。『先月の結果シート』には5つ項目がありますが、このうち入力するのは「2 先週の笑顔の妄想の実践結果」と「3 改善点」「4 スケジュール結果」の4週目結果の数字部分のみになります」
山本「つまり1ヶ月の結果を見て、次の月にどうして行くかを明確にするってことですね」
木戸「そうです。『4 スケジュール結果』の4週目結果の数字部分を入力することで、最初に予定した行動数と商談数、契約数と実際の数字が大きく違ったり同じだったりと数字が見えますからね」
山本「その数字を見て『もっと紹介に力を入れてみよう』とか『エリアを絞ろう』『もう少し成約率を伸ばそう』」など改善点を見つけていくというですね
木戸「さすが山本さん! すっかり『ひとみるシート』のポイントを把握していますね! あとは実践あるのみです」
「ひとみるシート」について2章と3章に渡りお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか? ちょっとボリュームがあったと思いますが、1年半で年商2千万円の大赤字だった私の会社が3億円に激変する大きなきっかけとなった秘密をすべて公開しました。
次の章では、この「ひとみるシート」を最大限に活かす方法を見ていきましょう。
4章 この15ステップであなたの会社に
超営業力が育つ!
「ひとみるシート」は個人任せにしない
前章で「ひとみるシート」の全容が理解できたと思います。
期待が膨らんできたと同時にもしかしたら「この本の説明どおりに社員ができるだろうか……」と不安な気持ちも湧き出てきたのではないでしょうか?
その不安を一掃するには、社員任せにしないことです。
社員に「ひとみるシート」の説明を軽くして「このシートを来週までに記入しておくように」と社員任せにしてしまうと、「また社長、面倒くさいことやり始めたよ」と社員からの信用を失うだけになります。
なによりも社員任せにしてしまったのでは、2~3回使ってやらなくなります。
そうならないためには、「ひとみるシート」を使ったミーティングを開くことです。
営業社員が全員参加必須のミーティングを週に1回行い、そこで「ひとみるシート」を使うようにすることで、ひとりでは考え付かなかったアイデアがたくさん出てくるようになり、ミーティングが楽しい場になります。そうなれば継続させようとしなくても、続けられるようになりますよね。
そこでこの章では、「ひとみるシート」の力を最大限に発揮するミーティングの進め方について見ていきましょう。
ミーティングを行う理由は「2−1−3の法則」で伝える
実は「ひとみるシート」を使ったミーティングを社内で取り入れる話になると、急にトーンダウンする社長が少なくありません。
「会社で新しいことを始めようとすると、社員みんないい顔しないんですよね……」
そこで私は社長にこのような質問をします
木戸「今まで新しいことを社内で始めるとき、社員が納得するよう、どう伝えていたんですか?」
社長「新しいことをやることで社員が得られるメリットを伝えます。具体的には『会社の売り上げがあがることで賞与に反映するので、みんなでがんばろう!』という感じですかね」
木戸「なるほど。今までもそういった感じで社員に伝えていたんですか?
社長「おおよそこんな感じですが、納得してないでしょうね……」
社長の言うとおりで社員は「うまいこと言って、なんとかやらせようとしてるだけでしょ」とまったく納得していない事実があります。
なぜ社員のメリットを伝えているのに納得しないのでしょう?
その理由は「条件付き」になっているからです。
違う言い方をすると、「会社の売り上げが上がらない限り賞与は上がらない」と言っているようなものです。
「ということは、売り上げが上がることより先に、賞与を上げればいいということですか?」
それも違います。もちろん社員はお金をもらうために働いているわけですが、お金だけで解決しようとすると会社内のバランスが乱れるだけでなく、社員が増長してしまいます。
そこで、あなたにお勧めする伝え方が、「2−1−3の法則」です。
といっても意味が分からないと思いますので説明しましょう。
2=二人称=相手=社員
1=一人称=自分=あなた(社長)
3=三人称=その他=会社
という意味になります。
この「2−1−3の法則」を今回の例に当てはめると、このようになります。
「〇〇くん(社員)に『この会社に入ってよかった!』って喜んで欲しいんだよ。それが私の一番の喜びだから。そこで会社をもっと良くしていくために『ひとみるシート』というのを使ってミーティングをしたいと思っているんだけど、ちょっと話を聞いてもらえるかな?
これを分解すると、次のようになります。
2=〇〇くん(社員)に『この会社に入ってよかった!』って喜んで欲しいんだよ
1=それが私の一番の喜びだから
3=そこで会社をもっと良くしていくために
要件=『ひとみるシート』というのを使ってミーティングをしたいと思っている
相談=ちょっと話を聞いてもらえるかな?
いかがでしょう?
このように「2−1−3の法則」で社員に伝えれば、「社長がそこまで言うんなら話だけでも聞いてみようか」という気持ちになる感じがしませんか?
これは社員に限った話ではなく、お客さんに対しても同じです。何かを伝えるとき、目の前の人ファーストにすることで、あなたの想いが伝わるようになります。
新たな取り組みに社員が協力的になる3つのポイント
「2−1−3の法則」をしっかり理解して、より社員に伝わるようになる3つのポイントをお伝えしましょう。
ポイント1
何かを始めようとする1ヶ月以上前に社員に伝える
会社で新しいことを始めようとすると社員がいい顔をしない一番の理由は、実施する直前に発表することにあります。
社長としては、ずっと前から温めていたアイデアを満を持して発表したつもりでも、社員にとっては初めて聞く話。このギャップから社員としては社長が有無を言わさず一方的に決行しようとする発言に不信感を持ち始めます。
私自身もそのようなことを何度も繰り返したため、社員からの信用を失ったことがあります。そうならないよう何かをやろうとするときは、最低でも1ヶ月前に伝えるようにしましょう。
ポイント2
相談をするスタンスで社員に伝える
新しいことを「やる」と決めた言い方ではなく、相談するスタンスで伝えることが大切です。そうすることで「社長が私を頼ってくれた」と社員は嬉しい気持ちになります。
「社員に相談をして、いい返事がなかったら計画が進まない」という心配もあるかと思います。
そういった場合1回の話で納得させようという気持ちは捨てて、何度も相談するといいです。
あるクライアントは社員6人全員に反対をされ、毎週「2−1−3の法則」で伝えたところ「社長がそこまで言うんなら」と社員全員がやるようになった例もあります。
仮に全員の同意が得られなかったとしても、最初は同意が得られた社員にだけ先に実践してから社員全員が実践するようになった例もありますので先を急ぎすぎないようにしましょう。
ポイント3
普段から「2−1−3の法則」のスタンスで社員と接する
会社で何かを始めるときだけ「2−1−3の法則」を使うのではなく普段からそのスタンスで社員と接することは大切です。
たとえば社員が話しかけてきたとき、パソコン画面を見ながら話をするのでなく、パソコンを打っている手を一旦休めて視線を社員に合わせて話をする。といった小さなことを普段から実践することが何より大切です。
私は、社員から届くメールを最優先に返信することを心がけていますが、パソコン画面を見ながら話をすることがあるので、気をつけなくてはいけませんね。
このように一貫性のある行動をとることで、より「2−1−3の法則」が伝わるようになります。
「ひとみるシート」を使う前の準備が大事
さて「ひとみるシート」をやることを「2−1−3の法則」で伝えたら、いよいよミーティングでの実践です。
まずはミーティングの前に、つぎの4つの準備をしましょう。
▼準備1【ツール】
用意をするツールは4つあります。
- ミーティングをやる1日前までに「ひとみるシート」スプレッドシートを社員各自のパソコンで開けるようセッティングを済ませておくことと、社員同士でスプレッドシートが共有できるように設定もしておきましょう。
- ボールペン
- ノート(行動詳細のa【ひとりをイメージする】b【関係性】c【笑顔の妄想】のメモを取るため)
- 「ひとみるシート」記入事例をプリントアウト(1回目のミーティングの場合は「1週目」のシート)記入事例は次のページからダウンロードしてください。エクセルのファイルになります。
この4つをミーティングに参加する社員の人数分を用意します。
▼準備2【司会進行係】
最初は社長が担当しましょう。(第5章の3つのチェック項目が1ヶ月間パーフェクトになったら司会進行を交代してOKです)
▼準備3【参加人数】
「ひとみるシート」を使ったミーティングは5人以下でやることを薦めます。
その理由は、人数が多すぎるとミーティングが長時間になり集中力が切れてしまい、苦痛の時間になってしまう可能性が高くなるからです。
営業社員が6人以上いる場合は2班に分けるといいです。
▼準備4【時間】
ミーティングの時間は2時間を目安にするといいです。この2時間をより有意義な時間にするために、携帯電話の電源を切るかマナーモードにし、電話禁止にしてミーティングに集中しましょう。
1週目の「ひとみるシート」はこの15ステップで進める!
準備が整いましたらいよいよひとみるシートを使ったミーティングのスタートです。ステップが15もあり大変そうに思うかもしれませんが、多くの実践者は1ヶ月もやれば慣れていますので安心してくださいね。
それでは順番に説明していきましょう。予定時間はミーティング参加メンバー3人の場合の目安です。
▼ステップ1【ミーティング開始のあいさつ】(予定時間3分)
社長があいさつをします。その際も必ず「2−1−3の法則」を意識したメッセージを伝えましょう。
▼ステップ2【笑顔のシェア】(予定時間4分)
昨日、笑顔になった話を参加メンバー全員(社長も)が1分以内で発表します。発表し終えたら全員で発表者に対して拍手を送ります。
笑顔になった話とは、たとえば「サンドイッチマンの漫才をテレビで見て妻と爆笑した」とか「大好物のチョコパフェが食べられて思わず笑顔になった」「最近いなかった野良猫と会えて嬉しかった」といった他愛もない話のことです。
特に笑顔になることがなかったとしても、ほんの少しでも笑顔に近づいた些細なできごとを探します。
自分が笑顔になったことを言葉にしてシェアすることで、笑顔をキャッチするアンテナが立つようになり「ひとみるシート」の「笑顔の妄想」づくりが楽になります。
さらにはお客さん対応のときもより一層、笑顔を意識できるようになり、なんといっても「笑顔のシェア」をすることは、自分の幸せにフォーカスするトレーニングになります。
「笑顔のシェア」の効果は、まだあります。
社内の人間関係がとても良好になるんです。毎日、出社し顔を合わせていても「見込みはできたか?」「あの書類は提出したか?」といった〝コト〟だけが行き交っているだけで、心を通わすことが全くできていないケースがほとんどです。
それが「笑顔のシェアをすることで、社内の人間関係も心が通うようになるきっかけが生まれます。
▼ステップ3【「ひとみるシート」の説明】(予定時間2分)
次に「ひとみるシート」記入事例をミーティング参加者全員に配り、第2章を参考に社長がひととおり説明をしましょう。
▼ステップ4【1~3の入力】(予定時間5分)
「ひとみるシート」のタイトル下にある「目標設定の月」と「1週目の月日曜日」「記入日」「名前」「1 目標」「2 行動予定」「3 スケジュール予定」をスプレッドシートに入力するよう伝えましょう。
▼ステップ5【スケジュール調整】(予定時間3分)
「4 スケジュール調整」に移ります。「1 目標」に入力した契約数、商談数と、「3スケジュール予定」の全体の数字が合っているかを確認し、あっていない場合は調整するよう伝えましょう。
また1週間の行動量が現実的かどうかも確認しましょう。
▼ステップ6【「行動詳細」の説明】(予定時間1分)
次に「5 1週目の行動詳細」に入力する内容について記入事例を見せながら改めて説明しましょう。強調すべき点は100点満点のことを入力しようとしないで、30点でよしとして軽い気持ちで入力することを社員に伝えてください。
▼ステップ7【「行動詳細」の入力】(予定時間10分)
「5 1週目の行動詳細」2−1、2−2、2−3にあるa【ひとりをイメージする】、b【関係性】、c【笑顔の妄想】の各項目を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ8【「笑顔の妄想」を1つ選ぶ】(予定時間1分)
前ステップで入力した3つの行動のうち、【笑顔の妄想】が一番うまく妄想できなかったものを社員各自が1つ選ぶように伝えましょう。
▼ステップ9【発表順決め】(予定時間1分)
前ステップで選んだ【笑顔の妄想】を社員が発表する順番を決めましょう。
▼ステップ10【「笑顔の妄想」を発表】(予定時間3分)
発表1番目の営業社員が一番うまく妄想できなかった【笑顔の妄想】の【特定のひとりをイメージする】【関係性】【笑顔の妄想】を発表し、それをホワイトボードに書き出しましょう。
パソコンの画面を見るより、改めてホワイトボードに書き出すことでアイデアが出やすくなります。
ホワイトボードに記入する役割は、他の営業社員でも司会進行者でもOKです。
▼ステップ11【ブラッシュアップ・ワーク】(予定時間25分)
ホワイトボードに書き出した内容を見ながら営業社員同士で、より笑顔がイメージできる気にかけ言葉のアイデアを出し合い、ブラッシュアップするワークを行いましょう。
その際、注意すべき点があります。
アイデアを出した内容について、否定の言葉を使わないことをミーティングのルールにしましょう。
「ひとみるシート」の目的は、目の前にいる人を「気にかける」ことです。これをお客さんだけでなく社内でも実践し一貫性を持たせることが大切です。
▼ステップ12【「笑顔の妄想」を修正】(予定時間3分)
より笑顔がイメージできる気にかけ言葉のアイデアがひととおり出たら、発表1番目の社員「ひとみるシート」の【笑顔の妄想】を書き直すよう伝えましょう。
▼ステップ13【繰り返し】(予定時間58分)
次に2人目の営業社員が同じようにステップ10~12を踏み、次に3人目の社員というように進めていきましょう。
▼ステップ14【「笑顔の妄想」実践発表】(予定時間3分)
次のフォーマットに基づいて、社員各自が締めの発表をするよう伝えましょう。
〇月の目標を発表します。〇月〇日までに契約〇件を達成します。そのために来週(訪問・電話・LINE)する予定の〇〇さんが笑顔になるよう(笑顔の妄想の内容)を実践します。〇月〇日(発表した日付)自分のフルネーム
発表する「笑顔の妄想」は、ミーティングで話し合った内容のもの1つでOKです。
ひとりが発表するたびに全員で拍手をしましょう。
このように改めて声に出して発表することで記憶に刻まれると共に、「やり遂げよう!」という気持ちが芽生えてきます。
▼ステップ15【「みとめポイント」発表】(予定時間3分)
最後に社長がミーティングの締めのあいさつをしましょう。
社員一人一人の「みとめポイント」を伝える。そのためには、ミーティングをしている様子や【笑顔の妄想】の発表をよく聴きメモを取っておく必要があります。
そのメモの取り方については第5章で説明をしていますので、そちらをご覧ください。
ここまでが1週目のミーティングの進め方になります。
2~4週目ミーティングの進め方
2週目以降のミーティングでは、「ひとみるシート」の説明をする必要がなくなりますので、その分時間が短くなります。
また最初は全員が初めてのことで慣れなかったのが回数を重ねるごとにスムーズに進むようになります。
それでは、2~3週目のミーティングの進め方を見ていきましょう。
▼ステップ1【ミーティング開始のあいさつ】(予定時間3分)
▼ステップ2【笑顔のシェア】(予定時間4分)
▼ステップ3【先週の「笑顔の妄想」の実践率を入力】(予定時間1分)
「2週目シート」の「2 先週の笑顔の妄想の実践結果」を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ4【先週の「笑顔の妄想」の実践率を発表】(予定時間2分)
社員一人一人が「2 先週の笑顔の妄想の実践結果」を発表します。
ステップ2の「笑顔のシェア」と同じように一人一人が発表し、ひとりが発表するたびにミーティング参加者全員で拍手をしましょう。
▼ステップ5【改善点の入力】(予定時間3分)
「2週目シート」の「3 改善点」を一言で入力するよう伝えましょう。
▼ステップ6【改善点の発表】(予定時間3分)
ここでも一人一人が発表し、ひとりが発表するたびに拍手をしましょう。
▼ステップ7【スケジュール予定】(予定時間1分)
「2週目シート」の「5 スケジュール予定」の「1週結果」を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ8【スケジュール調整】(予定時間3分)
「1 目標」に入力した契約数、商談数と、「5 スケジュール予定」の全体の数字が合っているかを確認し、あっていない場合は調整するよう伝えましょう。
また1週間の行動量が現実的かどうかも確認しましょう。
▼ステップ9【「行動詳細」の入力】(予定時間10分)
「7 2週目の行動詳細」2−1−3のa【ひとりをイメージする】、b【関係性】、c【笑顔の妄想】の各項目を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ10【「笑顔の妄想」を1つ選ぶ】(予定時間1分)
▼ステップ11【「笑顔の妄想」発表順決め】(予定時間1分)
▼ステップ12【「笑顔の妄想」を発表】(予定時間3分)
▼ステップ13【ブラッシュアップ・ワーク】(予定時間25分)
▼ステップ14【「笑顔の妄想」を修正】(予定時間3分)
▼ステップ15【繰り返し】(予定時間58分)
次に2人目の営業社員が同じようにステップ12~14を踏み、次に3人目の社員といように進めていきましょう。
▼ステップ16【「笑顔の妄想」実践発表】(予定時間3分)
次のフォーマットに基づいて、社員各自が締めの発表をするよう伝えましょう。
〇月の目標を発表します。〇月〇日までに契約〇件を達成します。そのために来週(訪問・電話・LINE)する予定の〇〇さんが笑顔になるよう(笑顔の妄想の内容)を実践します。〇月〇日(発表した日付)自分のフルネーム
発表する「笑顔の妄想」は、ミーティングで話し合った内容のもの1つでOKです。
ひとりが発表するたびに全員で拍手をしましょう。
▼ステップ17【「みとめポイント」発表】(予定時間3分)
最後に社長がミーティングの締めのあいさつとして、社員一人一人に「みとめポイント」を発表します。
以上が2週目のミーティングの進め方になります。3週目、4週目も2週目の進め方とまったく同じになります。
「先月の結果シート」の使い方
「先月の結果シート」は、「4週目シート」を入力してから1週間後、つまり翌月初回のミーティングで使います。
次の図が「先月の結果シート」になります。
そして月が替わりましたので、新たな「ひとみるシート」ファイルを作成するよう社員に伝えてください。
そのために「ひとみるシート」のファイルをコピーします。
コピーの仕方は、「ファイル」をクリックし「コピーを作成」をクリック、ファイル名を入力すれば、新たなファイルができます。
では、「ひとみるシート」を使った2ヶ月目初回ミーティングの進め方をとおして「先月の結果シート」の使い方を説明しましょう。
▼ステップ1【ミーティング開始のあいさつ】(予定時間3分)
▼ステップ2【笑顔のシェア】(予定時間4分)
▼ステップ3【先週の「笑顔の妄想」の実践率を入力】(予定時間1分)
「先月の結果シート」の「2 先週の笑顔の妄想の実践結果」を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ4【先週の「笑顔の妄想」の実践率を発表】(予定時間4分)
▼ステップ5【改善点の入力】(予定時間3分)
「3 改善点」を一言で入力するよう伝えましょう。
▼ステップ6【改善点の発表】(予定時間3分)
▼ステップ7【スケジュール結果】(予定時間1分)
「4 スケジュール結果」の「4週結果」の数字を入力するよう伝えましょう。
▼ステップ8【先月の目標と結果を発表】(予定時間12分)
「1 目標」の目標に掲げた契約数と商談数と、「4 スケジュール結果」の契約数計と商談数計、そして感想を社員各自が発表するよう伝えましょう。
▼ステップ9【新たな「ひとみるシート」ファイルを作成】(予定時間3分)
▼ステップ10【1~3の入力】(予定時間5分)
新たに作成した「ひとみるシート」の「1週目シート」のタイトル下にある「目標設定の月」と「1週目の月日曜日」「記入日」「名前」「1 目標」「2 行動予定」「3 スケジュール予定」を入力します。
▼ステップ11【スケジュール調整】(予定時間3分)
▼ステップ12【「行動詳細」の説明】(予定時間1分)
▼ステップ13【「行動詳細」の入力】(予定時間10分)
▼ステップ14【「笑顔の妄想」を1つ選ぶ】(予定時間1分)
▼ステップ15【発表順決め】(予定時間1分)
▼ステップ16【「笑顔の妄想」を発表】(予定時間1分)
▼ステップ17【ブラッシュアップ・ワーク】(予定時間25分)
▼ステップ18【「笑顔の妄想」を修正】(予定時間3分)
▼ステップ19【繰り返し】(予定時間58分)
▼ステップ20【「笑顔の妄想」実践発表】(予定時間3分)
▼ステップ21【「みとめポイント」発表】(予定時間3分)
以上「ひとみるシート」初回から2ヶ月目第1週までのミーティングの進め方をお伝えしました。
最初はなかなか思い浮かばなかった「笑顔の妄想」が3ヶ月目あたりから当たり前のようにアイデアが出てくるようになり、引き出しも増えてきます。
それに従い親密度Aのお客さんが増えてきます。
何よりも今まで社内で飛び交っていた敵対関係の言葉が、いつの間にかなくなっていることに気づくと思います。
それは社内に笑顔が浸透した現れです。
そうなったら社員全員の営業成績が上がり、社員もあなたも笑顔が増えるはずです。
5章 「ひとみるシート」があなたの会社に
奇跡を起こす!
「ひとみるシート」の素晴らしい世界へようこそ!
第2章から第3章にわたって「ひとみるシート」について説明をしてきました。そこでこの章では、実際に「ひとみるシート」を使った事例をお伝えします。
この事例を知ることで、「ひとみるシート」を使う様子がイメージできるのはもちろん、「笑顔の妄想」がなかなか思いつかないときのヒントや契約になるポイントが理解できるようになります。
それでは早速、見ていきましょう。
間違えて訪問したお宅がまさかの契約に!
・実践1ヶ月目の「ひとみるシート」の内容は?
1つ目は、保険代理店U社長の事例です。「ひとみるシート」を使ったことで営業社員のAさんが家族構成を聞き忘れたことに気がつきました。
このことがきっかけで思わぬところに話が展開し、ミーティング参加メンバーが気にかけることの重要性に気づき始めます。
U社長の会社のミーティングの参加メンバーは、Aさんと先輩Hさん、同僚のTさん、Yさん、そしてU社長の5人です。「ひとみるシート」を使って1ヶ月目になります。
まずはミーティングのテーマになったAさんの「ひとみるシート」の内容をご覧ください。
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
山田さん(仮名) 70歳代 女性 家族? 多分無職
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
2週間前 2回 雑談1分 風邪をひいていた 親密度C
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
「ご体調はいかがですか?」と気にかけ「おかげさまで大丈夫。ありがとう」と笑顔で答えると妄想する
この「ひとみるシート」の内容をAさんが発表しホワイトボードに書いたあと、どのようにブラッシュアップされていくのか、ミーティングの様子を見ていきましょう。
Tさん「ところでこのお客さん、どんなきっかけで出会ったんですか?」
Aさん「実はそれが引継ぎのお客さんに訪問したつもりが、間違えて隣のお宅だったんです」
Tさん「え? 間違って訪問したのに、また訪問したわけ?」
Aさん「お隣の引継ぎのお客さんのこともあるので『先日は失礼しました』ってあいさつに伺っただけなんですが」
Tさん「え~! そうだったんですか! それで今回の訪問目的って何になります?」
Aさん「まだ親密度がCなので、まずはAになるように雑談ができたらと思ってます」
社 長「うん、それがいいよ。関係づくりが一番大切だからね」
【ポイント1】商品の話は親密度Aになってからする
親密度Cは心を閉じているので、どんなにメリットを伝えてもNOになります。慌てずに関係性を築いていきましょう
Tさん「山田さん(お客さん)のところにアポなし訪問なんですよね? 訪問目的はなんて言うつもりですか?」
Aさん「そう、アポなし訪問です。前回お伺いしたとき風邪をひいていたので、あいさつをしたあと『体調はよくなりましたか?』って気にかけようと思っています」
Tさん「親密度がCなので『体調は戻ったけど何か?』という返答になると思うんですが、もしそう言われたらなんて言うつもりですか?」
Aさん「そう聞かれたら『あ~体調戻られてよかったです』と言って『特に用事はないんですが山田さんのことが気になって』というのはどうです?」
社 長「いい感じだと思うけど、何かもうひとつ山田さんが笑顔になる妄想ができたらいいと思わない?」
Aさん「ですよねぇ。それをみなさんから何かいいアイデアをいただけたらと思ったんですが(笑)」
社 長「これどう? 今日、朝Yさんが話していたネギは?」
Aさん「ネギですか??」
Yさん「あっ! いいかもです! 実は先週、旦那の実家からネギが食べ切れないほど送られてきて、『こんなに食べ切れないよ』って旦那に言ったら『お客さんに分けたら?』って言うんで、なるほど! と思ってお客さんにあげたんです。そうしたら予想以上に喜んでもらえて。その中で何回伺っても『今忙しいから』って言われて、何も話せなかったお客さんにネギを持っていったら、初めて笑顔で話してくれたんです。なのでAさん、よかったらまだ家にネギが余ってるんで使ってください(笑)」
Tさん「それ、いいですね! その方が笑顔になるって妄想できます!」
Aさん「そのネギ、いただきます(笑)イメージできちゃいました! 体調を気にかけたあと『突然ですけどお料理にネギを使いますよね?』って確認して『えぇ、使いますけど?』って言われたら『ご近所からネギをいただいて食べ切れないのでお料理に使っていただけますか?』と言ったら笑顔で『ありがとう』って受け取ってもらえる感じがします!」
社 長「基本、金品をあげることは返って警戒されることになるけど、ネギはありだと思うよ」
Hさん「ところで『特定のひとりをイメージする』の家族構成が空欄になってるけど、これはお客さんが教えてくれなかったということですか?」
【ポイント2】「特定のひとりをイメージする」の項目はすべて埋める
商品を知ってもらおうとすることより、目の前にいる人を知ろうとすることが関係性を築く上でとても大切です。
Aさん「すっかり忘れてました。今度伺ったとき聞いてみます。ネギを渡したあとだったら、聞きやすそうです」
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
▼before
「ご体調はいかがですか?」と気にかけ「おかげさまで大丈夫。ありがとう」と笑顔で答えると妄想する
▼after
「ご体調はいかがですか?」と気にかけ「もう大丈夫」と山田さんが答えたら『突然ですけどお料理にネギを使いますよね?』と確認。『えぇ、使いますけど?』って言われたら『ご近所からネギをいただいて食べ切れないのでお料理に使っていただけますか?』と言ったら『ありがとう』と笑顔で答えると妄想する
・家族構成を聞いたことで意外な展開に!
その1週間後のミーティングでの話です。
Aさんは山田さん宅にアポイントなしで訪問し、ミーティングで打ち合わせをしたとおりに話が進みネギを渡すと「悪いわね」と言って笑顔で受け取ってくれたといいます。
さらには家族構成の話もスムーズに聞くことができ、ひとり暮らしだということ、そして40代、独身の息子さんがいて、他県でひとり暮らしをしていることがわかりました。
息子さんは食生活や将来のことなど無頓着なので心配をした山田さんは、息子さんのために共済保険に申し込みを数年前に済ませているという話も聞けたといいます。
ところがそこから保険の話に踏み込もうとしたとき、来客があり話は中断しました。
Aさんはそんな報告を交えながら「ひとみるシート」を発表しホワイトボードに書き出しました。
そしてAさんからミーティング参加メンバーに相談する形で話し合いが始まりました。
Aさん「山田さんに『ネギ美味しかったですか?』と気にかけて『ありがとう! 美味しかったわ!』と笑顔で答えるところまでは妄想できるんです。ただ、そのあと普段の私だったら『先日の息子さんの件で一度お話をさせていただきたいんですが』と切り出して、共済だと保障が不足してるので提案させていただけるよう進めるんです。でも、そこには笑顔になる気にかけがまったく思い浮かばないので協力をお願いします」
Hさん「う~ん、それって簡単じゃないですよね。『一度お話をさせていただきたい』も『提案させていただけるように持っていきたい』というのも自分スポットライトなので、これをどう相手スポットライトにするかってことですよね」
Tさん「相手スポットにするには、仕事の話を抜きにして人としてどう気にかけるか?というところにヒントがあるので、そう考えたときひとり暮らしをしている息子さんを心配している山田さんに気にかけるとしたら? で考えてみたらどう?」
Aさん「『ひとり暮らしの息子さん、心配ですよね?』という感じですか?」
Hさん「これはお客さんによると思うんですけど、訪問目的をちゃんと伝えず曖昧にしていると気持ち悪いという人もいるので、ネギの話をしたら目的を明確に伝えたらいいと思うんですがどうでしょう?」
Tさん「確かにそのとおりだね。山田さんは大丈夫っぽい方だと思うけど、目的を明確にした方がより安心するので相手スポットライトの目的だよね」
【ポイント3】親密度A以外は訪問目的を明確にする
同僚Tさんが言うようにアクションを起こすときは目的を伝えることでお客さんは安心します。これも気にかけることになります。
Aさん「相手スポットライトだから、山田さんを気にかけた目的ということですよね」
社 長「Aさんとしては、ひとり暮らしの息子さんを心配している山田さんに、どう思っているの?」
Aさん「何か力になれればと思っています」
Tさん「なるほど! それを目的にしたらいいですね! 山田さんが息子さんのことをとても心配していたので気になって伺った。余計なお節介かと思ったけど山田さんがさらに安心して笑顔が増える案が浮かんだので山田さんがよろしかったらお話しようと思いますが、という感じで言えば気にかけている感じがしますね!」
Aさん「その『余計なお節介かと思った』というのが、なんかとてもいい感じですね!それ使わせてもらいます」
Yさん「どこを切っても気にかけている感じがいいですね!」
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
山田さん、70歳代、女性、ひとり暮らし、無職
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
4日前、3回、前雑談10~15分、ネギはいろんな料理に使うので助かる、40代独身のお子さんがいる、来客があり話は中断、親密度B
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
▼before
「ネギ美味しかったですか?」と気にかけ「ありがとう! 美味しかったわ!」と笑顔で答えると妄想する
▼after
「ネギ美味しかったですか?」と気にかけ「ありがとう! 美味しかったわ!」と山田さんが笑顔で答える。
次に「ところで先日、山田さんが息子さんのことをとても心配していたので気になって今日お伺いしたんですが……。余計なお節介かと思ったんですが、山田さんが息子さんのことでさらに安心して笑顔が増える案が浮かんだので山田さんがよろしかったらお話しようと思いますがいかがですか?」と気にかけ「それはありがとう。どんな話ですか?」と笑顔で答えると妄想する
・2回も続けて「笑顔の妄想」のとおりに話が進んだ!
続いてその1週間後のミーティングの様子です。
4回目となる山田さんへの訪問は、今回もほぼミーティングで打ち合わせしたとおりに話が進み、Aさんは驚きます。前回、話の途中で来客があり、話が中断しましたが、今回も山田さんが出かけようとしたタイミングでの訪問だったため、またも話が中断。
ところが、それが功を奏することになりました。
一体なにが起きたのか? そのときの話し合いを見ていきましょう。
Aさん「実は今回、山田さんの笑顔の妄想がまったく思いつかず見てのとおり空欄です。どうしてかというと今まで商談の中で笑顔を気にかけたことが一度もなかったので、何をどう言えばいいかまったくわからないので、みなさんご協力お願いします」
Hさん「それと前回、山田さんを訪問して話が中断してラッキー、というのと何か関係ってあるの?」
Aさん「それ言うの、忘れてました。もし話が中断しなかったら、気にかけることを一切しないで商品説明をしていたと思うんです。今までまったくやったことがなかったし『ひとみるシート』も書けなかったので。それが中断したことで、ここでみなさんからヒントをもらえることになったのでラッキーだと思ったんです」
社 長「ちなみに今までは、どんなふうに商品説明していたの?」
Aさん「今回の山田さんのように共済に入ってるお客さんには、掛け金が安い分、保障が少ないデメリットがあることを否定にならないように言ってました」
Tさん「確かに今までずっと笑顔になるように気にかけていたのが、商品説明になった瞬間、ガラッと感じが変わったら、山田さんはちょっと心配になるかもね」
Aさん「ただそうはいっても共済のデメリットをしっかり伝える必要はあると思うんですが、その点どうでしょう?」
Tさん「う~ん……」
Hさん「確かにこれは簡単じゃないなぁ」
社 長「それがデメリットかどうかは山田さんが判断することなので、それを決めつけない発想で考えてみたらどう?」
Tさん「確かに言われてみると、そうですね。価値観は人それぞれ違いますからね」
Aさん「デメリットと決めつけない発想で笑顔になるよう気にかけるってことですよね。う~ん……」
Hさん「今Tさんが言った『価値観は人それぞれ』に気にかけるヒントがあるんじゃないかな。山田さんが笑顔になることって、もっと保障がついた方が安心して笑顔になるのかもしれないし、反対に今より保障が減っても毎月支払う保険料が安くなった方が生活に余裕ができて笑顔になるかもしれない。もしかしたら今のままの保障かもしれない。でもそれは聞いてみない限り分からないこと。だとすると?」
Aさん「だとすると、山田さんにとって何が笑顔になるかを確認するということですか?」
社 長「それは素晴らしいね! 山田さんにとって何が笑顔になるかを確認するというのが『気にかける』ということだね!」
【ポイント4】自分で決めつけたり予想したりして行動するのでなく確認する
「多分お客さんは〇〇と言うはず」と思っていたことも、実際に確認してみると違う答えが返ってくることが多々あります。このようなことから、必ず確認する癖をつけましょう。
Aさん「え? 私まだ意味がわかりませんけど(汗)それを言葉にするとどうなるんですか?」
Tさん「あっ! 私、わかりました。こんな感じですかね? まずは今の保険の保障内容のひとつを取り上げて、『万が一息子さんが〇〇になった場合、保障が◇◇になりますが、これは不足してますか? それとも充分な感じですか? どっちが山田さんにとって安心して笑顔になりますか?』と気にかけて、次の保障内容についても同じように気にかけて行くということですか?」
Aさん「なるほど! それ、とてもいいかもです! 実は私、デメリットを伝えたり提案をしたりするときって、何か自分の中で売り込んでる感があったんですが、これだったらすごく言いやすくなる感じがします! Tさんありがとうございます!」
Hさん「なるほどね! Aさんが売り込んでる感があって言いにくいというのは自分スポットライトになっているからで、それがお客さんが笑顔になる方向で話すというのは相手スポットライトになるから、だから言いやすくなるということだよね」
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
山田さん、70歳代、女性、ひとり暮らし、無職
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
5日前、4回、3分、ネギはどんな料理にも使うのでと喜んでいた、息子さんはネギ嫌い、出かけるところで話が中断、再来週火曜日、10時にアポイント、親密度B
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
▼before
その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
「ネギ美味しかったですか?」と気にかけ「ありがとう! 美味しかったわ!」と笑顔で答えると妄想する
▼after
共済保険の内容を確認するとき、保障内容のひとつを取り上げる。
そして「山田さんにとって息子さんのことで安心するか伺いたいんですが、万が一息子さんが〇〇になった場合、保障が◇◇になりますが、これは不足してますか? それとも充分な感じですか?」と気にかける。
「もうちょっと保障があった方がいいかなぁ」と山田さんが言った場合、「それはどんな理由になりますか?」とさらに気にかけ、山田さんがより安心して笑顔が増えるプランを確認して、最終的に山田さんが笑顔で「これで安心だわ」と契約になると妄想する。
「今の保障で大丈夫」と山田さんが言った場合、「それはよかったです! 山田さんが安心して毎日過ごすことって息子さんにも伝わると思いますので確認できてよかったです」と気にかけ、山田さんが「そう言ってもらえて安心しました」と笑顔になると妄想。
・いつも背中を押しての契約が、お願いされて契約に!
このミーティングの6日後、見事、山田さんは契約となりました。
しかも、今までは商品説明をしたあと「こういう機会がないと保険のことは後回しになってしまいがちですので、是非この機会に決断されませんか?」とお客さんの背中を押して契約になっていたのが、今回はお客さんが笑顔で「お願いします」と言われて契約になりました。
この結果にAさんはこう言います。
「ミーティングをするたびに笑顔に焦点を当てる話し合いをして、実際にお客さんと話す時も笑顔に焦点を当てて話をしていたら、最終的にお客さんが笑顔で契約になるって、嬉しいのと同時に驚きです!」
笑顔が大切なことは誰もが知っていることです。
しかし多くの営業マンが「笑顔だけでは契約にはならない」と思いこんでいるので、笑顔をないがしろにしてしまいがちです。
確かに笑顔だけで契約になることはないですが、土台がないと家が建たないのと同じように笑顔がないと契約にはなりません。
改めて「笑顔」の大切さを今回、体感したとAさんは言います。
またU社長は「ひとみるシート」を使ったミーティングの手応えについてこう言います。
「正直『ひとみるシート』に可能性を感じたものの結果が出るのが先か? 社員たちが飽きてしまうのが先か? ヒヤヒヤでしたよ。
それが今回、明らかに『ひとみるシート』がきっかけで成果をあげられたことで、Aさんを含め社員みんなが実感できてホッとしています。
一番は私自身がすごい学びになってます。大切な話はどうしても抽象的になりがちで、それをなかなか営業活動に落とし込めないのが、このミーティングでそれができて本当によかったです!
お客さんも社員もひとりの人として見ることの大切さを、ミーティングをやるたびに気付かされます!」
U社長だけでなく、ほかの社長も、社員を巻き込んで「ひとみるシート」を使うことに本当にうまくいくのかとヒヤヒヤします。実は私もヒヤヒヤしているんです(汗)
それを焦らず、あわてず、諦めず、U社長がしゃべりすぎず、社員に発言の機会を作ろうと意識し続けたことが、今回の結果に結びついたのだと思います。おめでとうございます!
8ヶ月間、成績ゼロが「ひとみるシート」導入2回目で成約に!
・メリットとデメリット両方を確認する
では次に、住宅会社K社長の事例をお伝えしましょう。営業社員のひとりに長年トップの成績を上げていたYさんがいます。
しかし3年前からスランプに陥り、年間契約数2棟と低迷した状態から抜け出せません。
Yさんは展示会や現場見学会から高い確率で見積提出まで行くのですが、成約率がなかなか改善されないのがスランプから抜け出せない一番の原因です。
そこでYさんが「ひとみるシート」でどう変わっていくかを見ていきましょう。
K社長の会社の営業ミーティングの参加メンバーは、Yさんと後輩のTさん、EさんとK社長の4人で「ひとみるシート」を使って2回目のミーティングです。
Yさんが「ひとみるシート」を発表しホワイトボードに書き出しました。「ひとみるシート」を使った1回目の営業ミーティングに続き、笑顔の妄想がまったく思い浮かびません。本音の部分では「ひとみるシート」を使って意味があるのか? と疑心暗鬼の気持ちが大きい感じです。
Yさん「このシートに書くのに選んだお客さんは、神田さんというかたで今回、私を含めて5社相見積もりです。もう8ヶ月も成約がない状態なので今回、見積書を提出することになっているのでなんとか契約を決めたい気持ちでいるんですが、それだと自分スポットライトの考え方になってしまうので、神田さんに選んでいただけるよう、より丁寧に説明をしたいと思ってます。ただ、どう気にかけて笑顔になってもらえるかがよくわからないのでヒントをいただけたらと思います」
社 長「契約に導く目的で質問をするのでなく、神田さんの気持ちや考え想いを知ろうと問いかけることが『気にかける』ことになるので、これに沿って考えてみたらどう?」
Yさん「はい。理屈はわかるんですが、なんかイメージできないんですよね。それを具体的にどう言えばいいかが……」
Tさん「初めて『ひとみるシート』のレクチャーを受けたときの話をそのまま使うのはどうですかね? 説明をすべてし終えてから『わからないところはありませんか?』と確認するのではなく、ひとつ説明をしたらひとつ確認する。商品メリットをわかってもらおうとするのでなく、目の前にいる人にとって笑顔の方向になるものかを確認する。確認する際は『どうですか?』と曖昧な聞き方ではなく『〇〇ですか? それとも◇◇ですか?』とニュートラルなスタンスで気にかける。とレクチャーで言っていたので、これをそのまま言うのはどうですか?」
Yさん「う~ん、そのまま言うっていうのがイメージできないんだけど……」
Tさん「たとえば『弊社の太陽光発電システムのメリットは〇〇になりますが、神田さんご家族にとってこれは笑顔になるものですか? それとも笑顔にはならないものですか?』という感じで気にかけるのはどうですか?」
社 長「あぁ、そうやって実際のトークに当てはめると違いがよくわかるね!『弊社の太陽光発電システムのメリットは〇〇になりますが、どう思いますか?』と言われると何かYESを求めてる感じでお客さんによっては圧迫感を感じる人もいるかしれないけど、そうやって気にかけるとお客さんは答えやすいんじゃないかなぁ」
Eさん「今のトーク、こうしたらさらにお客さんは答えやすくならないですか? 『弊社の太陽光発電システムのメリットは〇〇でデメリットは△△になりますが、神田さんご家族にとってこれは笑顔に~』という感じでメリットとデメリット両方を確認するのはどうでしょう?」
Yさん「確かにそう言ったほうが、お客さんは安心して答えられる感じがするね。なるほど~」
【ポイント5】どこを切っても目の前の人の笑顔に焦点を当てる
初回訪問のときも情報収集のときも商談のときも、常に目の前の人が笑顔になる方向に進むよう確認をしていきましょう。
少し納得したYさんはこのように笑顔の妄想を書き、5日後に神田さんに提出する見積書作りに取り掛かりました。
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
神田さん、37歳、女性、5人暮らし(ご主人、奥さん方の母、中学生女の子、小学生男の子)、専業主婦
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
2週間前、5回、30分、奥さんは以前に保険の外交員をやっていた、ご主人は太陽光にこだわりがある、次回見積もり提出、5社相見積もり、親密度B
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
▼before
より丁寧に説明する?
▼after
「弊社の太陽光発電システムのメリットは〇〇でデメリットは△△になりますが、神田さんご家族にとってこれは笑顔になるものですか? それとも笑顔にはならないものですか?」と笑顔で気にかけると神田さんのご主人は「物事なんでもメリットだけってことはないからね)」と笑顔で答えると妄想
・3年間、空回りをしていた原因はココにあった!
そして見積書を提出したその日、嬉しい結果がありました。なんと! 5社相見積もりの中、成約となったんです!
次の日、さっそく朝礼でYさんの成約を社員みんなで祝ったあと、社長がYさんに聞きました。
社 長「今回、成約になった要因はどこにあったと自分なりに思っていることをシェアしてもらえますか?」
Yさん「やっぱり商品力だと思います。言うまでもなくうちの会社の強みは太陽光で、ご主人が太陽光にこだわりを持っている方だったので、そこが一致したからだと思います。なのでラッキーと言えばラッキーだったのかもしれません」
社 長「なるほどね。神田さんの笑顔の妄想の実践率はどのくらいでしたか?」
Yさん「70~80%はできたと思います。なかなか慣れないことだったので、かなりぎこちない感じになったかもしれませんが、なんとかやってみました」
社 長「80%は素晴らしいね! それで神田さんは何回か笑顔になった感じ?」
Yさん「正直、説明をひとつして確認をして、そしてまた説明をしたら確認するということだけで精一杯だったので、神田さんの笑顔の確認の余裕がなかったんですが、笑顔にはなったと思います」
社 長「まあ慣れないうちはみんなそんな感じだから徐々に慣れていったらいいことなので、何よりも成約という結果になったわけだから、気にかける気持ちがちゃんと神田さんに伝わったんだと思うよ。
Yさん「ありがとうございます」
社 長「Yさん、どうだろう? 一度、神田さんにたくさんの住宅会社を比較検討した中、なぜうちの会社を選んでもらったのか、しっかり聞いたらと思うんだけど。今度、神田さんに会ったときに聞いてみないか?」
Yさん「あ~、それはいいですね。もしかしたら成約の要因は僕が思ってたのと違うことだってありますからね」
社 長「それもあるし今後の対応の仕方の改善点や加えたらいい点なんかが見つかるかもしれないしね」
この話し合いの数日後、成約した理由を神田さんに聞くことができました。
その理由はYさんにとって意外なことでした。
神田さんはこう言いました。
「最初Yさんが、笑顔、笑顔って繰り返し言うので、どこかの宗教に入っている人なのかなぁって思ったんですけど(汗)ごめんなさいね。でも終始Yさんが『ご家族の皆さんに笑顔になって欲しい』って言っていたので、私たちを一番考えてくれているのはYさんだと。主人も母も『Yさんにお願いしよう』と言っていたので全員一致ということでYさんに決めました」
成約の決め手となったのは、間違いなく太陽光だとYさんは思っていたので驚きを隠せませんでした。
しかし神田さんのこの言葉で、Yさんがスランプから抜け出せなかった理由がハッキリわかったと言います。
スランプから1日も早く抜け出そうと、自社で購入するメリットをどう伝えるかに全エネルギーを注いでいました。これが大きな間違いだったとYさんは気づきます。
メリットをどう伝えるか=メリットをわかってほしい=自分スポットライト
これが3年間ずっと空回りをしていた原因だったのです。
そうではなく、
一つひとつを確認して相手が笑顔になるかどうかを知ろうとする=相手スポットライト
ここにエネルギーを注ぐべきだったということ、そして常に相手スポットライトで対応する大切さが今回の体験でストン! と腑に落ちたとYさんは言います。
そしてこの1ヶ月半後も成約となりYさんの元気な笑顔も復活して、2人の社員もホットなお客さんが増え、会社の雰囲気も明るくなったことにK社長も喜んでいました。
「長年トップの成績を上げていたので彼なりにプライドがあったので、『ひとみるシート』を受け入れてくれるかが一番心配だったんですが、こんなに早く成果が出て本当によかったです! お客さんも社員も会社の利益をもたらす存在として見るのでなく、ひとりの人として見る大切さは私自身、一番勉強になりました!」
早く成果が出たのは、「ひとみるシート」を始めるにあたってK社長が1ヶ月以上もかけてYさんを気にかけ、納得してからスタートしたことが一番の要因だと思います。
そんなK社長の粘り強さが素晴らしかったです!
他社より高い見積もりなのに1分で即決に!
・5年間放ったらかしのお客さんへの顔出しに気が引けるTさん
では次に、リフォーム会社N社長の事例をお伝えします。
営業ミーティングの参加メンバーは、入社8年目になる営業のTさんと事務員のMさん、N社長の3人です。今までN社長の会社では営業ミーティングをまったく行っていませんでした。
当初はN社長とTさんのふたりで営業ミーティングを行う予定でしたが、私が事務員のMさんも参加することをお勧めしたことで、3人で行うことになりました。
そうした理由は2つあります。
ひとつは、全社員3人の家族的な雰囲気の会社なので全員参加することで結束力が高まること。
もうひとつは、事務員のMさんは営業のことも建築知識もないと言うので、顧客に近い目線で判断ができるのでそこを活かすためです。
N社長が一番、解決をしたいのは社員Tさんの売り上げアップです。
社長自身も営業と現場管理も行い毎月1千万円近くの売り上げをあげているのですが、Tさんの売り上げは社長の半分もいきません。
何度も営業同行をしてN社長が商談する様子をうしろで見せたり、反対にTさんが商談をする様子をうしろで見てそのあとにアドバイスをしたりするなど、マンツーマン指導をしているのですがTさんの売上が伸びません。
一番気になっているのが既存顧客からの売り上げ比率が低いことです。
ここを改善することで500万円の売り上げは毎月クリアできると社長だけでなくTさん本人も思っているといいます。
それでは営業社員Tさんの「ひとみるシート」を使った初めての営業ミーティングの様子を紹介しましょう。
Tさんが「ひとみるシート」を発表しホワイトボードに書き出したお客さんの名前は鈴木さん(仮名)です。
5年前に鉄塔解体の工事が終わったとき、ご主人にとても喜んでもらい「今度リフォームするときはTさんにお願いするからね」と言われたことから、ちょうど今時期がタイミング的にいいのではと鈴木さんを選びました。
しかしTさんは笑顔の妄想がまったく思い浮かびません。
お客さんを笑顔にしようと考えたことがなかったのに加え、定期的に顔出ししないと、と思いながらも先延ばしになり5年も経ってしまい、気が引けてしまうとTさんは言います。
そんなTさんに、事務員のMさんの発言でミーティングがスタートしました。
Mさん「私、営業のことはまったくわからないから営業的には違うかもしれませんが、年賀状は毎年会社で出してるじゃないですか? なのでそこまで気にする必要ないと思うんですが。確かに顔出ししたほうが絶対にいいことなんですが、それをしなかったからってお客さんが怒ってたりしないと私は思うんです」
社 長「まあ確かにそんなに気にすることはないと思うよ」
Tさん「そうですか。僕の気にしすぎですかね。普通に『お久しぶりです!』って笑顔で行っちゃえばいいんですかね?」
社 長「うん、それでいいと思うよ。俺だったらそんな感じで軽い気持ちで行くけどね」
Mさん「でもTさんって真面目だから、社長が言うように軽くって感じになれないというか、キャラが違う感じがするんだけど、Tさんはどうなんですか? 軽い気持ちで行けそう?」
Tさん「軽い気持ちですよねぇ。僕そういうの苦手で、どうしても構えてしまうというか。まあいつも社長からカタイって言われるんですが、そこが課題ですよね」
社 長「で、笑顔の妄想はどんな感じにする?」
Tさん「笑顔ですよね。う~ん……」
しばらく沈黙が続いたあとMさんが言いました。
Mさん「いきなり笑顔にしようと思うから何をしたらいいか出てこないと思うので一旦、笑顔にするのを置いといて、Tさんが安心して言えることを探すのってどうなんですか?社長」
社 長「笑顔っていうのは最終的にというか、笑顔になる方向にという意味だと思うからMさんの言うとおり、いきなり笑顔にする必要はないと思うよ」
Tさん「僕が安心して言えることですか……」
Mさん「Tさんに聞きたいんですけど、ちゃんと年賀状を毎年出しているのに、それだけじゃダメっていうことなんですか?」
Tさん「いやダメってわけじゃないけど、年賀状で済ませるんじゃなく、ちゃんと顔出しするのが礼儀なんじゃないかって思ってしまうんです。ここが社長にカタイって言われるところなんですが」
Mさん「え? それってカタイとかでなく、とてもいい考えだと私は思うし、そういう真面目さに共感してくれるお客さんってたくさんいると思いますよ。それに今言ったことをそのまま言えばいいじゃないですか?」
Tさん「え? そのままって?」
Mさん「『年賀状で済ませるんじゃなく、ちゃんと顔出しするのが礼儀なんじゃないかって思って来ました』ってそのままですよ」
社 長「それ! かなりいいんじゃない! そう言われたら大抵のお客さんは『ご丁寧にありがとうございます』って間違いなく笑顔になるよ!」
Tさん「えぇぇ? そんなんでいいんですか?」
社 長「『そんなんで』ではなく、それがいいんだよ!」
Mさん「私、前から思ってたことがあって、それ言ってもいいですか? 社長とTさんはキャラが正反対なので、Tさんは社長のようになろうとしないでTさんのそのままのキャラでやったほうが、無理がないのでいいと思うんです」
社 長「Mさんメチャいいこと言うね! それを聞いて今気づいたんだけど、自分のやり方をTさんに押し付けてたのかもしれないね。Mさんの言うとおりTさんのキャラで無理なく楽にやったほうが絶対いいね。それで鈴木さんに『ちゃんと顔出しするのが礼儀なんじゃないかって思って来ました』って言ったらどんなリアクションがあるとTくんは妄想する?」
Tさん「そうですねぇ、『わざわざありがとう! しばらくぶりだね』って笑顔で言ってくれそうです」
Mさん「もうひとつ、個人的なこと聞いていいですか? 鈴木さんが飼っている猫ちゃんのトムはミックスとかマンチカンとか品種はなにかわかりますか? うちも猫を飼ってるんで気になったんですが」
【ポイント6】他愛もない話にアンテナを立てる
スルーしてしまいがちな猫の話をMさんがしっかりキャッチしたのは素晴らしいです。お客さんと会ったときは、必ず1つはキャッチした他愛もない話を気にかけるようにしましょう
Tさん「猫の品種ってよくわからないんですよねぇ(苦笑)模様の違いならわかるんですけど」
Mさん「ぜひ、品種を聞いてみてください。猫好きな人は猫の話をすると嬉しくなりますから」
このような感じで1回目の営業ミーティングが終わり「ひとみるシート」の笑顔の妄想の項目も無事、埋まりました。
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
鈴木さん、50歳代、男性、妻、男性20代子、運送業経営
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
5年前、15回、鉄塔解体工事、猫のトム大好き、「また工事するときはTさんに」と言われた、親密度A
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
▼before
思い浮かばない……
▼after
「年賀状を出すだけでなく、きちんとあいさつするのが礼儀だと思い伺いました」と笑顔で伝え「わざわざありがとう! しばらくぶりだね」と笑顔で答えると妄想する
・建物と会話をしていた社長
続いて1週間後、2回目のミーティングの様子です。前週にTさんが「ひとみるシート」に入力した「笑顔の妄想」の実践発表からお伝えしましょう。
Tさん「鈴木さんの笑顔の妄想の実践率は100%でした。多少の緊張はあったんですが、ひとみるシートに書いたとおりに言えたのと、妄想したとおり鈴木さんに『久しぶりだね! わざわざありがとう!』と言ってもらえたのにはびっくりで。あと先週ミーティングをして本当によかったと思ったのはトムの話です」
鈴木さんにトムのことを聞いたら、1年前に亡くなったというのでTさんびっくり。それからトムの思い出話をしていたら盛り上がり、どちらかというと口数が少ない鈴木さんが、30分以上もしゃべっていたといいます。
そしてTさんが帰ろうとしたとき「今、他社で屋根工事の見積もりをしてもらっているのでTさんにも見積もって欲しい」と言われ、屋根工事の見積もりをすることになりました。
そこでTさんは、今週の「ひとみるシート」の「笑顔の妄想」を次のように作りました。
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
鈴木さん、50歳代、男性、妻、男性20代子、運送業経営
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
9日前、16回、鉄塔解体工事、トムが1年前に亡くなった、屋根工事を他社で見積中、弊社でも見積提出することになった、親密度A
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
見積書のパターンを5つ作り「鈴木さんの好みに合ったプランが自由に選べるように作りました」と笑顔で気にかけ「こんなに作ってくれたんだ。ありがとう」と笑顔で答えると妄想する
社 長「このシートでは〝気にかける〟というのは〝問いかける〟ことなので、『自由に選べるように作りました』を問いかける形にしたらどう?」
Tさん「なるほど、では『自由に選べるように作りましたがどうでしょう?』という感じだったらいいですかね?」
社 長「うん、いいと思うよ。あと、見積書を出すもっと前のタイミングで『Tさんにお願いしたい!』って鈴木さんが思うような気にかけをしたいなぁ」
Tさん「見積書を出す前に既に決まってる状態にするんですか。う~ん……」
Mさん「これって私がお客さんだったらの話なんですが、見積書パターンを5つ作ってもらってもそれが嬉しいことかといったら、微妙な感じがするんです。なので社長の言うように、見積書じゃないところがいいと思います」
Tさん「そうかぁ、お客さん側から見たら嬉しいことじゃないのか……。見積書を出す前に、ですよね……」
社 長「う~ん、自分でもそう言っておきながら、これはなかなか簡単じゃないね」
Mさん「あれって、どうなんですか? 昔、雨ドイか何かの見積もりで社長が脚立を使うので、私が足元を抑えに行ったことってありましたよね? はっきり覚えてないんですが、そのとき社長が『奥さん、この雨ドイくん、めちゃガンバったんですよ』みたいな感じで、雨ドイとか壁を人間かのように語りかけていたじゃないですか? それを聞いた奥さんは笑ってましたし、私も社長って本当にリフォームが好きなんだなぁって思ったんです。あれってすごくいいと思ったんですが、これはTさんもやってるんですか?」
Tさん「それは初耳です。え? 社長っていつもそんなことしてるんですか?」
社 長「あぉ~、あれねぇ。いつもやってるというか無意識なんだよね(苦笑)」
Tさん「え? 具体的にどんなこと言ってるんですか?」
社 長「そうやって改めて言われると出てこないけど、たとえば『奥さん、この壁くんガンバってたのを知ってましたか?』なんて感じかなぁ」
Tさん「それ、面白くて、いいですね! あさって現調も行く予定なので、それを鈴木さんに言いながらしてみます!」
【ポイント7】「仕事大好き!」を伝える
お客さんが笑顔になるヒントに、あなたが「仕事大好き!」であることを伝える方法があります。生活のために仕方なく仕事している営業マンより、仕事が大好きでやっている営業マンにお客さんは笑顔になり、依頼したくなります。
そうして改めて書き直した「ひとみるシート」がこちらです。
a【ひとりをイメージする】(名前は? 何歳? 性別は? 家族は? 職業は?)
鈴木さん、50歳代、男性、妻、男性20代子、運送業経営
b【関係性】(出会ってどの位? 何度会った? 聞いた他愛もない話&仕事関連の話は? 親密度をABCで表現)
9日前、16回、鉄塔解体工事、トムが1年前に亡くなった、屋根工事を他社で見積中、弊社でも見積提出することになった、親密度A
c【笑顔の妄想】その人が笑顔になるよう、どう気にかけ、どんな笑顔の返答を妄想する?
現調のとき「鈴木さん、この屋根くんガンバッテたの知ってましたか?」と笑顔で気にかけ「そうだね、建ててからもう20年近くなるからね」と笑顔で答えると妄想する
・「根っから仕事が好きなんだね」と言われていきなり契約に!
ではここからは「ひとみるシート」を使った3回目のミーティングをお伝えします。
この日、Tさんはいつにも増して顔がほころんでいます。それもそのはず、見積書を提出した鈴木さんが、いきなり契約になってしまったからです。
そのTさんの発表から始まったミーティングを見ていきましょう。
Tさん「屋根の現調をするとき社長から教えてもらった建物との会話は、自分で喋ってても面白くなりました! 屋根裏に入って点検をしたとき、防水紙が数カ所破れていたのをビデオで撮って鈴木さんに見せたんです。そのときも『防水くん、本当にご苦労さん。雨水から守ってくれて、ありがとう、という感じですよね』という感じで言えました!」
社 長「それ、なかなかいいじゃない! で、そう言ったあと鈴木さんの何かリアクションはあったの?」
Tさん「鈴木さんも自然に『そうだよね。もう20年も経つからね』って答えてくれたりして、『防水くん』の他にも『瓦くん』とか『野地板くん』といろいろ言ってきました!」
社 長「5回もできたら、もう完璧でしょ!」
Tさん「ありがとうございます! まだまだ社長のようには言えないですが。そうしたら鈴木さんが見積書を30日までに持ってきて欲しいって言うんです。既に見積もりをお願いしている会社さんに30日までに返事を出さないといけないので、それまでに見積書を見せて欲しいというので今日の朝、持って行ったら契約になったという感じだったんです」
社 長「おめでとう! そうなんだ! で、どんな感じで契約になったの?」
Tさん「金額だけ見て『予想よりちょっと高いけどTさんにお願いします』って見積書を渡して1分も経たずに決めてもらった感じです」
社 長「ということは工事の説明なしで契約になったという感じ?」
Tさん「そうなんです。工事説明する前に決めていただいた感じです。でも間違いがあったら大変なのでちゃんと工事内容は確認してもらいましたけどね」
社 長「決め手はなんだったのかは聞いた?」
Tさん「あ~、はっきりは聞いてませんでしたが鈴木さんに『屋根の様子を見てもらったとき、Tさんは根っから仕事が好きなんだってことがわかって、やっぱりそういう人に工事をお願いしたほうが間違いないって思ったのと、以前も一生懸命やってくれたからね』と言っていただいたので、やっぱり現調のときに『防水くん』とか家に語りかけたのがよかったんだと思います」
・信頼される決め手は工事説明でないところにあった!
この体験でTさんは、営業に対する考え方を改める必要があることに気がついたと言います。
お客さんに笑顔になってもらうことは大切だというのは知っています。しかしそれより、良い工事をする会社であることをいかに伝えるかのほうが大切だと思っていたのです。
この考えこそが自分スポットライトで、ここに社長の倍近くの案件がありながら売り上げは社長の半分という状態から抜け出せなかったとTさんは言います。
そこに気づくきっかけになったのが2つあったようです。
1つは猫の話です。
今までのTさんは仕事以外の話には目がいかなかったのですが事務員のMさんに「猫の話をした方がいい」と言われたことでその話を鈴木さんに切り出しました。その話をしてから鈴木さんと打ち解けて話せるようになったのは明らかでした。
もう1つは、建物との会話です。
社長が無意識でやっていた建物との会話は面白いことではあるけど、これが契約の決め手になるとは思ってもいませんでした。
それが「仕事を好きでやってる人に頼みたい」という鈴木さんの言葉に、工事の説明よりそういった笑顔になるような些細な言葉掛けこそが信頼を生み出すことにつながるとTさんは気づいたようです。
それから6ヶ月後、「ひとみるシート」を使ったミーティングを始めて何か会社の変化はあったかをN社長に聞いてみました。
「3人の小さい会社ですが、より3人が1つになった実感があります。ミーティングを始めてからTくんの売り上げが1.5倍に伸びて、その中でも既存客からの契約が伸びましたね」
N社長がずっと願っていたTさんの業績アップが果たせてよかったです!
なによりも3人が1つになった実感が持てるというのは、ある意味、売り上げをあげる以上に簡単ではないことなので、この上ない喜びをN社長は感じたのではと思います。
・営業の達人社長は無意識で人間関係づくりをしている
続けてN社長はこうも言っていました。
「思ってもいなかったのが事務のMさんの存在ですね。
私が無意識でやっていた『ひとみるシート』で言う『笑顔の妄想』を彼女が引き出してくれたり、彼女自身が笑顔の妄想が得意だったりというのが大きな発見で、その才能が『ひとみるシート』で引き出された感じです。
彼女がいるおかげでTくんも私もなかなか出てこない『笑顔の妄想』がパッと出てきて助かってるし、そこに彼女も面白さとか頼りにされてるのを感じて、より楽しく仕事をするようになりましたね!」
確かにMさんはとても豊かな感情の持ち主で、私も気づかされることがたくさんありました。
〝お客さん〟ではなく、〝目の前の人〟を見るという意味の「ひとみる」を地でやっている人で、本当に素晴らしい仲間が集まっている会社ですね!
最後のN社長の言葉は、多くの社長の盲点だと思いました。
「あとTくんを育てられなかった理由も「ひとみるシート」を使ってハッキリわかりました。私が無意識でやっている部分が一番大切だったところで、それが何ひとつ伝えられなくて、その上辺にあるものしかTくんに伝えていなかったので空回りしていたんです。
でもこのミーティングをやるようになって、おかげさまで私自身が一番楽しく仕事ができるようになりました」
おっしゃるとおり多くの社長はお客さんとの関係づくりを自転車に乗るのと同じように無意識でやっています。その部分が言語化できないために空回りしているんです。
そういったところに気づき、素直に認められるN社長が素晴らしいです!
6章 好循環の歯車をグルグル回すのに
必要なたった1つのこと
社員を気にかけることへの不安
これまでミーティングで「ひとみるシート」の使い方とその事例をお伝えしました。
実は、「ひとみるシート」は車でたとえるとエンジンの部分にあたります。そのエンジンを動かすためにはガソリンが必要です。
つまりどんなに高性能なエンジンがあってもガソリンがないとエンジンを回すことはできないのと同じで、「ひとみるシート」を機能させるために必要なものが存在します。
そこでこの章ではガソリンの部分に当たる重要なことをお伝えします。
では、「ひとみるシート」を機能させるために何が必要なのか?
ズバリ! 答えは、社長が社員を気にかけること。
「ひとみるシート」を社員がお客さんを気にかけて笑顔にしているのと同じように、社長が社員を気にかけて笑顔にするのです。
実はこれが、本書の中で一番重要なことといっても過言ではありません。これを実践しない限り毎週欠かさずミーティングをやり、「ひとみるシート」も毎回きちんと使ったとしても社員は永遠と〝やらされ感〟を持ったままの状態になります。
「ひとみるシート」がまったく機能しないのはもちろん、反対に「俺たちには『気かけろ』と言っておきながら社長は俺たちに一切気にかけないって矛盾してない?」と不信感を持たれるようになります。
「ひとみるシート」を機能させるには社長が社員に言っていることと、自分がやっていることを一致させる必要があります。
社員を気にかける必要性を話すと、多くの社長が次のような心配や不安を持ちます。
✓ どのタイミングで気にかけたらいいかわからない
✓ 今までやっていなかったことを急にやったら何か企んでいると疑われないか?
✓ どのくらいの周期で気にかけたらいいかわからない
✓ ずっと継続して社員に気にかけられる自信がない
✓ 具体的な言葉が思い浮かばない
これらの不安をたった1つのことをやるだけでクリアできる方法があります。
それが第4章でお伝えしたミーティングの進め方ステップです。ミーティング最後の、参加した社員一人一人の「みとめポイント」を社長が発表するところです。
このステップが社員を気にかけるタイミングです。
つまり週に1回だけでOKということです。
新たに「ひとみるシート」を使うタイミングで気にかけることをすれば、社員に「急に気にかけたら何か企んでいると疑われないか?」という心配もなくなります。
それに社員の意識は「ひとみるシート」を記入することで精一杯なので「社長が急に気にかけるようになってどうした?」なんて思う気持ちの余裕はないので大丈夫です。
そして「継続して社員に気にかけられる自信がない」という心配も大丈夫です。
「ひとみるシート」を使い続けている限りステップの流れでやっていくわけなので「今週は気にかけるのを忘れた」ということは起きませんので、ご安心ください。
「社長のひとみるシート」を使えば不安は一掃
一番の心配は、気にかける具体的な言葉が思い浮かばないことかもしれません。月1回のミーティングならまだしも毎週、一人一人の社員を気にかけるとなるとネタが尽きてしまい毎回、同じ話になってしまうのではと心配になると思います。
そこで、そんな心配を吹き飛ばすために、社長のための「ひとみるシート」を用意しました。
名付けて「社長のひとみるシート」です。まずは実物を紹介しましょう。
「社長のひとみるシート」は、前のページからダウンロードしてください。PDFファイルがダウンロードされます。
では、どのように使うかを説明しましょう。
まずは、記入日の年月日を書きます。1枚の「社長のひとみるシート」にひとりの社員のことを書いていきます。その社員の名前を「◇◇さんの『みとめポイント』」のひとみるシートにあるアンダーライン部分に書きます。
次に罫線で囲まれた3つの枠がありますが、ここは社員の「みとめポイント」を発表できるようにするための部分になります。
この枠は、次の3つの項目に分かれています。
①社員の「今週の行動詳細の発表」
②社員の「今週の笑顔の妄想を決めるまでの話し合い」
③社員のその他の発言
①は、ひとみるシートにあるアンダーライン部分に記入した社員がミーティングで「今週の行動詳細」を発表したとき記入する枠で、②は「今週の笑顔の妄想を決めるまでの話し合い」をしているときに、③はその社員が①②以外で発言したことに対して記入する枠になります。
わかりやすいように、事例を交えて説明していきますね。
ほんの少しでも感じたことにアンテナを立てる
その事例は、4章のリフォーム会社N社長のミーティングで社員はTさん、「今週の笑顔の妄想を決めるまでの話し合い」です。
今週の笑顔の妄想を決めるまでの話し合いの中で、社員Tさんの発言に耳を傾けます。その発言の中で、ほんの少しでも「なるほど!」とか「ヘェ~」「マジで!」「知らんかった」「初めて聞いた」「同じだ!」と感じたことにアンテナを立てます。
重要なのは、「ほんの少しでも」自分が感じたことをキャッチすることです。その感じたことをa【感じたこと】の枠の中にある言葉に〇を付けます。
N社長が〇を付けたのは「同じだ!」でした。
次に、〇を付けたのは、社員が言ったどの言葉だったのかをb【社員の言葉】に記入します。
N社長が「同じだ!」と感じたのは社員Tさんのこの言葉でした。
「猫の品種ってよくわからないんですよねぇ(苦笑)模様の違いならわかるんですけど」
感情の言葉は自分で考えない
そして次に、その社員の言葉を聞いたときのあなたの感情をc【感情】の枠にある中から、一番近いものを1つ選び〇をつけます。
N社長が〇を付けたのは「嬉しい」でした。
ここでのポイントは感情の言葉は自分で考えず、「感情一覧表」の中から選ぶことです。
理由は2つあります。
1つは、自分で考えるより「感情一覧表」の中から選ぶほうが簡単で早いからです。
もう1つは、自分で考えると「感心しました」「微笑ましく思いました」といったような感情ではなく感想になってしまうからです。
また、「感情を表す」というのは心を開くことにつながりますので、社長が心を開くことで社員が今まで以上に社長に心を開くようになる大きなきっかけになるからです。
これで「みとめポイント」が完成!
そして次に「社員の言葉」「感じたこと」「感情」の順で文を組み合わせます。これをb【みとめポイント】に記入します。
N社長はb【みとめポイント】に、このように記入しました。
「『猫の品種ってよくわからない。模様の違いならわかる』という話に私と同じで嬉しくなりました」
これで、社員Tさんへの「みとめポイント」は完成です。
いかがでしょう? もしかしたらあなたは「え? みとめポイントって、こんなことでいいの?」と思ったかもしれません。
はい、こんなことがいいんです。
第4章の事例にもあるとおり他愛もない話こそが、相手が笑顔になり気持ちが通じ合うきっかけをつくります。
他愛もない話であればあるほど「え? 社長は私のそんな発言を聞いていたんだ」と社員は笑顔になります。
「社長のひとみるシート」の目的は社員に笑顔になってもらうこと。社員が使う「ひとみるシート」の目的はお客さんに笑顔になってもらうこと。
つまり、社長が社員に言っていることと、社長が社員にやっていることを一致させるんです。
もう一度、社員Tさんへの「みとめポイント」を見ていただきたいのですが、上司部下関係の言葉ではなく、対等の関係の言葉になっているのがわかりますよね。
このN社長の例は、②社員の「今週の笑顔の妄想を決めるまでの話し合い」でしたが、①社員の「今週の行動詳細の発表」も③社員のその他の発言も同じ要領で記入していきます。
そして、この3つの項目すべてを埋めるようにしてください。
一言でもOKですので、空欄の項目を作らないこと。これが「みとめポイント」ネタを見つける一番のポイントです。
「特に書くことはない」と言ってひとつでも空欄を作ってしまうと、それが連鎖しすべての項目が空欄になってしまうことになりますので、一言でもOKですので埋めていくようにしていきましょう。
「みとめポイント」を発表したあとの3つのチェック項目
次が最後の「『みとめポイント』発表後3つのチェック」です。
この見出しのとおり「みとめポイント」を発表したあとにチェックする項目になります。
このチェック項目がある理由は、NG「みとめポイント」になっているケースや、最初はOKでも回数を重ねるうちにだんだんとズレてしまうことが多いからです。
そのときの、主なパターンは3つあります。
1.ほめ言葉になってしまう
「ほめる」ではなく「みとめる」という言葉を使っているのには理由があります。「ほめる」という言葉は、上下関係においての評価を意味します。指示を出す人と、従う人という縦関係を表します。
「親が子供をほめる」
「上司が部下をほめる」
これを逆にしたとき、ほめるという言葉がおかしく感じます。
「子供が親をほめる」
「部下が上司をほめる」
また「ほめる」という言葉は、相手を気持ちよくさせ、その見返りを求めているニュアンスを感じさせます。
「子供をほめて育てたのにどうして反抗ばかりするの?」という親の悩みも「部下をほめているのに関係性がギクシャクしたまま」という上司の悩みも原因は前述したところにあるのです。
これでは信頼関係は築けませんので「ほめる」ことはNGです。
一方の「みとめる」というのは、対等の関係を表します。一度もみとめる言葉がけをしたことがなかった部下にみとめ言葉をかけても最初は心を開かなかったとしても、何度もみとめ言葉をかけることで心を開くようになります。
ではどのようにすれば「ほめる言葉」ではなく「みとめ言葉」になるのか?
それが、a【感じたこと】b【社員の言葉】c【感情】d【みとめポイント】の項目をしっかり埋めていくことにあります。
このフォーマットに従って書くのが少し窮屈に思うかもしれませんがそれは最初だけですので、フォーマットどおりに毎回「みとめポイント」を書き出していくことで、だんだんとみとめ方がわかってきます。
2.答えを言う
「ひとみるシート」にある「笑顔の妄想」のアイデアをミーティングで社員同士が話し合い、結論が出たとき、それが社長としては物足りなかったり、お客さんが笑顔になりそうにないものだったりすることがあります。
その際「そうではなく、お客さんのことを考えた場合先に手紙を配ることをやっていこう」といったような答えを出すのはNGです。
「でもうまくいかないことを知らぬふりをするって、それこそ信頼を失うことになるんじゃないですか?」
はい、おっしゃるとおり知らぬふりをするのは信頼を失います。
大切なのは知らぬふりをすることでも答えを言うことでも指示を出すことでもなく、社員に考える時間を与えること。これがとても大切です。
社員が出した結論が失敗するパターンだったり間違えたものだったりしたとき、「お客さんがもっと笑顔になるよう、もうひとつぐらいアイデアを出してみたらどう?」とか「今の話はもう一度、自分スポットライトか相手スポットライトかどっちになると思う?」などと社員に問いかけるようにしましょう。
また社員が出した結論が微妙なケースもあります。それを実行し失敗したとしても大きな問題にならないようなことであれば、失敗を体験させることも大切です。
ほとんどの社長は社員より色々な経験を持っています。そのことで社員が結論を出すまでに考えている間に社長は既に答えが出ていたりすることがあります。
その時は答えを言うのをグッとこらえて絶対に答えは言わないと決めましょう。
3.ダメ出しをしてしまう
「それじゃ自分スポットライトでダメじゃないか?」
「何度も言ってるけど、それじゃお客さんは笑顔にならないよ」
といったように社員のためを思ってのダメ出しだとしても、これはやめましょう。
アイデアを出す作業をしている中で、否定と思われるような発言があるとミーティングの雰囲気が重くなり、アイデアの蓋が閉じてしまいます。
そうではなく「この場でどんなことを言っても肯定される」という雰囲気づくりが、斬新なアイデアが泉のように湧き出てくるミーティングにする秘訣です。
このように、あなたが発表した「みとめポイント」が
1.ほめ言葉
2.答え
3.ダメ出し
になっていないかを毎回チェックしましょう。
もちろん、このチェックも100点満点を目指してしまうと足が止まってしまうので、「30点でOK!」と軽い気持ちで社員への「みとめポイント」を発表してください。
思わず「それはダメだよ」と言ってしまった場合、「ドンマイ、ドンマイ! 次はできるから大丈夫!」と自分を笑顔でみとめることも大切です。
「みとめポイント」発表の絶大な効果とは?
「会社は社長で決まる」
これは経営の神様と言われている松下幸之助氏の言葉です。
「会社をつぶすのも、会社を繁栄させるのもすべて、トップである社長で決まる」という意味です。
ではどんな社長が会社をつぶして、どんな社長が会社を繁栄させるのか?
その答えが「みとめポイント」にあると私は考えています。
会社は儲かっていても「仕事が楽しくない」「ストレスだらけの毎日」という社長が少なくありません。社長がこのような気持ちでは儲かっている状態は続きませんし、社内の雰囲気も淀んだ状態になってしまいます。
まさに私のリフォーム会社経営時代がそうでした。
夢と希望を持って始めたはずの会社が楽しくない。利益は十分出ているのに不安でいっぱいの毎日。何のために仕事をしているのかわからなくなりました。そんな私に先輩経営者がこう言ってくれました、
「それって社員とのコミュニケーションが取れてないからだよ」
しかし私は毎日出社して社員と毎日顔を合わせています。言葉も交わしています。なので先輩経営者の言うことは、私には当てはまらないと思っていました。
実はここが落とし穴なんです。
毎日顔を合わせているからコミュニケーションが図れていると思ってしまいます。しかし社員と交わしているのは「アポは取れたか?」「これをコピーしておいて」「今月の調子はどう?」などすべて業務の確認だけ。言葉を交わしていますが、心が通うことはありません。
退職連鎖が起きたとき、そのことにやっと気づきました。
先ほど「上司部下という立場の関係を外して、対等の関係を作る。そのためには〝ほめる〟のではなく〝みとめる〟」とお伝えしました。その対等の関係とは、ひとりの人と人の関係でもあります。
具体的に言うと、社員の他愛もない話をキャッチすることです。
といっても社員の他愛もない話をキャッチするのに1日中、何を話しているか聞き耳を立てているというのは現実的ではないですよね。
そうではなくミーティングのときだけ意識を集中させるんです。しかも、週に1回だけ。これなら継続してできるイメージをもてますよね。
たった週に1回だけ社員の他愛もない話をキャッチし、それを「みとめポイント」として伝えるだけで、今まで〝社員〟という意識だったのが〝仲間〟と思えるようになってきます。
社員も「社長はちゃんと俺のことを見てくれてるんだ」と思うようになり、社内に社員の笑顔が増えてくるようになります。
今まで社員の笑顔なんてまったく意識がなかった私が、「社員が笑顔になった!」と感じられるようになったとき、今までずっと何かに追われて気が休まるときも場所もなかったのが、とても安心した気持ちになったと同時に、社員との出会いに感謝の気持ちが溢れてきました。
もしあなたも以前の私と同じような状態だったとしたら、ぜひ、社員への「みとめポイント」発表に意識を集中してみてください。
そのことで「なんで仕事してるの?」と聞かれたとき「楽しいからに決まってるでしょ!」と言える人になります。
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「ひとみるシート」を使ったミーティングのやり方について、出し惜しみなく全てをお伝えしました。
しかし、ひとつだけとても大切なことを言い忘れたことに気づきました。
本書でお伝えした内容を最大限に発揮するために最も大切なことです。
それは『勇気』です。
社員を気にかけたり、みとめポイントを伝えたりするのに正直、躊躇する気持ちはありませんか?
「『急に社長どうしちゃったんだ?』と思われるんじゃないか……」
「社員に気にかけたとしてもスルーされたら嫌だな……」
「気にかけたつもりが変にとられたらどうしよう……」
実は私自身がそうでした。今まで社員を気にかけるという発想すらなかった私が、突然そんなことをしたら「何か裏があるんじゃないのか?」と怪しまれたりするんじゃないのか……。
そう思うと「気にかけなんかしないで今までどおりでいいじゃないか……」と葛藤する自分がいました。
そんな私が気にかけられるようになったのは、ふと20代のころ、新宿歌舞伎町のパブで皿洗いのアルバイトをしていたときを思い出したからです。
採用になって、たった3ヶ月で辞めることをパブの経営者でもあるママに言ったときの話です。
「面接をしたときあんたは不採用だと思ったけど可愛そうだから採用したの。なのにこんなに早く辞めるって言うし、それにあんた3ヶ月の間、一度も私に『ママ綺麗だね』とかウソでも一言も言わなかったわよね! 最低!」
ボロクソに言われました。そのとき、「『ウソでも一言も言わなかった』ってウソを言えってこと?」と意味不明でした。
それから数年経って中学生向け教材営業で上司に似たようなことを言われたんです。
「心から思っていないからこそ口に出すんだ」
ママに言われたことと上司が同じようなことを言うので実践してみました。
お客さん「塾に行くことになってるし教材は使わないのよね…」
木戸「確かに教材ってなかなか使わないですよね」
(他の教材とは全然違うんだけど)」
お客さん「うちは長男のときから進〇ゼミを使ってるんで」
木戸「進〇ゼミさんは人気が高いですよね!」
(学校で使うのは進〇ゼミじゃないでしょ)」
ウソでも肯定することで、なんとなく自分自身の気分がよくなってきて、お客さんに寄り添う気持ちに変わったことに気づいたんです。
さらには、私の話を聞く耳が全くなかったお客さんがだんだんと聞いてくれるように変わり、今まで5分も持たなかったのが10分、20分、30分と会話が続くようになったのには驚きました。
このお客さんだけでなく、心に思ってなくても肯定的な言葉を言うと、同じように会話が続くんです。
そしてその1週間後、教材営業を始めて45日間、契約ゼロだった私が初契約になりました!
ママにボロクソに言われた話。上司に言われた話。初契約になった話。これを思い出したとき、「そうか! 社員に気にかけるのも同じだ!」と気づいたことがきっかけで、社員を気にかけられるようになりました。
そのとき必要なのが『勇気』です。
勇気を持って社員を気にかけてみてください。きっと社員もお客さんに初めて気にかけようとしたとき、躊躇すると思います。
それもあなたが率先して社員に気にかけることで社員も勇気を持って「気にかけてみよう!」と思うはずです。
第1章でお伝えしたとおり、朝礼やミーティングで喋るのが苦手だから社員に押し付けるような小心者の私にできて、あなたにできないことはないはずです。
ぜひ、勇気を持って社員を気にかけてください。その瞬間から世界が変わり始めます。
そして「なんで仕事してるの?」と聞かれたとき「楽しいからに決まってるでしょ!」と言える人になってください。
あなたの、成幸を確信しています。
追伸
アマゾンレビューに感想をいただけますと、とても嬉しいです。
次の本の執筆を計画していますので、いただきました感想を参考にさせていただき、より実践的な内容をお届けしたいと思っております。
2023年1月吉日 木戸一敏
■著者紹介
木戸 一敏(きど かずとし)モエル株式会社 代表取締役
1962年生まれ。30歳になるまでの間、転職を100回以上繰り返す。その中で売れる営業マンに憧れ、営業職に12回挑戦するも半日~3日でリタイア。最後に挑戦した教材販売で上司から営業のイロハを教わり、37ヶ月連続トップの成績を上げる。
他の商品でも売れるか試そうと、住宅リフォーム営業に挑戦。わけあり2ヶ月後独立。しかし営業マン6人もいて年商2千万円で大赤字となる。ミーティングの仕方と行動計画シートを作ったところ、一気に年商3億円に。
その後、事業内容をコンサルティングに変更し、仕事が楽しくない経営者に〝楽しい〟と〝売上〟を両立するモエル塾を開塾、延べ500人が参加。INAX大手企業から個人営業マンなど1千社以上のコンサルティングや研修を行う。
また東北電力や東京ガス、日経BP社、プレジデント社、日本全国の商工会議所、第一生命、住友生命、アリコジャパン、ダスキンなどで講演を行う。
著書に「質問のルール」(明日香出版社)、「みとめの3原則」(こう書房)、「なぜか挨拶だけで売れてしまう営業法」(大和出版)など6冊あり、すべてが重版。